中国共産党中央委員会の慣例として、「トップ7」を引退すると、北京西郊の西第五環状道路の外側にある西山という風光明媚な地域に、一軒家を与えられる。そこでは万全の警備を敷き、老後のケアも行き届いていて、ほとんどの元常務委員たちとその家族が、そこで静かに余生を送っている。

 例外は、習近平総書記と一線を引きたい元幹部である。西山で老後を過ごすと、警備が万全な代わりに、監視もまた万全だからだ。いつ誰が尋ねて来たか、どこへ外出したか、果ては自分の健康状態まで、すべて「党中央」(習近平総書記)に把握されてしまうのだ。

 そのため、例えば「習近平総書記の最大の政敵」と言われた江沢民(こう・たくみん)元総書記は、上海で余生を送っている。そして今回、「江沢民の忠犬」として、2012年に「トップ7」入りした張高麗前副首相も、西山には住んでいないことが判明したのだ。やはり習近平総書記に対して、警戒心を抱いていると見るべきだろう。

張高麗氏にとって「天津大爆発事故」に次ぐ二度目の危機

 実は張高麗氏は、習近平体制1期目の「トップ7」時代に、「失脚」が噂されたことがあった。2015年8月12日深夜、天津の浜海新区で、大爆発事故が発生した時である。あの6年前の爆発事故は、日本でもセンセーショナルに報じられたので、ご記憶の方も多いだろう。

 あの爆発があった地域は、2007年から2012年まで天津市党委書記(市トップ)を務めていた張高麗氏が利権を握っていた。張氏が彭帥氏に惚れて、愛人にしたのも、天津時代だ。

 あの爆発事故の夜、天津の警備当局幹部たちは北京に出張していて、警備が手薄になっていた。9月3日に習近平主席が主催する「中国人民抗日戦争勝利70周年軍事パレード」の予行練習を、8月13日に北京で行う予定だったからだ。

 そのため爆発事故は、「習近平失脚」を図るため、江沢民一派の張高麗常務委員が企図したのではないかという噂が流れたのだ。実際、中国のネット上では、「張高利」(高利貸しの張)という新語が、頻出するようになった。「高麗」と「高利」の発音が同じ「ガオリー」なのだ。本来なら、「トップ7」のこのような悪口が、ネット上に上がるはずもないのだが、削除されるどころか拡散されたのだ。

 だが、この時失脚したのは、「張高麗の最側近」楊棟梁(よう・とうりょう)国家安全生産監督管理総局長(元天津市副市長)だった。天津では、「張高麗の『替罪羊』(いけにえ)になった」と噂されたが、張氏は生き残った。

 それから6年余りを経て、今回再び「張高麗スキャンダル」が巻き起こったというわけだ。習近平総書記がこれをどう収拾するのか、要注目である。