前副首相に性的関係を強要されていたと告発して以降、その安否が心配されていた彭帥選手(写真:AP/アフロ)

 11月2日深夜、中国を代表する女子テニス界のスター、彭帥(ほう・すい、35歳)選手が、張高麗(ちょう・こうれい、75歳)前副首相に性的関係を強要されたと告発した問題は、3週間を過ぎた現在でも、火種が消えない。張氏は、2017年10月まで中国共産党の中央委常務委員(トップ7)を務め、2018年3月まで副首相を務めていた。

 当初、外交部報道官は「これは外交問題ではない」と逃げていたが、中国に対する世界的な非難は高まる一方だった。すると18日、CGTN(中国環球電視網英語チャンネル)が、彭選手がWTA(世界女子テニス協会)のスティーブ・サイモンCEOらに送ったものだとするメールの文面を、ツイッターに投稿した。

 続いて、20日には中国共産党中央委員会機関紙『人民日報』傘下の『環球時報』の胡錫進(こ・しゃくしん)編集長がツイッターに「間もなく公の場に姿を現し、活動に参加する」と書き込み、さらに同日、中国国営メディア(CGTN)の国際ニュースエディターでコラムニストの沈詩偉氏がツイッターで彭帥選手が自宅でぬいぐるみに囲まれて寛ぐ写真を公開した。また翌21日には、彭帥選手が北京のジュニアのテニス大会の開会式に出席した映像や、テニス関係者たちとレストランで夕食を楽しむ動画が胡編集長や沈氏によってツイッターにアップされている。

中国国営メディア(CGTN)の沈詩偉氏のツイッターで公開された彭帥選手の近影(提供:Shen Shiwei/Twitter/ロイター/アフロ)

 さらに21日には、IOC(国際オリンピック委員会)のトーマス・バッハ会長が、彭帥選手とオンラインで約30分、面談したと発表。来年1月に北京で会食する約束をしたとも述べ、面談の写真を公開した。今後もまだ何か出てくるのかもしれないが、この原稿を書いている24日時点では、ここまでだ。

北京五輪パラリンピック閉幕までは問題ない彭帥選手の安否

 中国ウオッチャーである私からすれば、いま最も注視しているのは、彭帥選手の安否ではない。ここまで国際社会が「外圧」をかけ、中国側も来年2月につつがなく北京冬季オリンピックを開催したいと切望している現在、彼女を拷問したり刑務所に叩き込んだりという選択肢はないのだ。

 おそらく来年1月には、本当にバッハIOC会長と会食し、その際の「スマイルシーン」を世界のメディアに公開するだろう。そして「あら、彼女本当に無事だったのね」ということになるに違いない。