【同志の感覚】
そもそも、福祉の最前線で奮闘している人々は、一家言ある“うるさ型”が多い。そもそも使命感を抱いて仕事をしていることに加えて、格差や差別など、社会の矛盾に日々直面し、疑問や怒り、悲しみを抱えている人が多い。そして、役所の杓子定規な対応に不信感を膨らませていく。
そんな人々も、林には同志に近い感覚を持っている。それは、かつて林が障害者福祉や高齢者介護の現場に身を置いていたこともあるが、それ以上に、行政組織に対して客観的だったことも大きい。林には、支援現場が行政に求めていることが肌感覚で分かっている。
林が相模原市の社会福祉法人に勤めていた時のこと。知的障害の利用者の中には生活保護受給者もいた。そこに役所のケースワーカーが来ても、本人状況は確認するが、通っている施設とのコミュニケーションはほぼなかった。それが、林には不満だった。
「年1回でも施設の担当者と顔を合わせることで、共有できる情報もある。受給者に何かあった時、面識があるかないかでできる対応が全然違う。自分がケースワーカーになった後は、できるだけ現場に顔を出すようにした」
林が福祉業界の猛者と丁々発止やり合えるのは、社会福祉法人時代に出会った相模原市役所の職員の存在もある。
その当時、林は通所施設での仕事のかたわら、行政と障害者施設をつなぐ連絡協議会の事務局でも働いていた。その時に事務局長を務めていた市役所の職員が、規格外の人物だった。
一昔前の福祉業界には、学生運動に身を投じていた人が少なからず存在した。弁が立つため、行政に要望や不満をガンガンぶつけた。それを受けて立つ市役所の職員が、同じくらいの猛者だった。
その役人は、外部団体と激論を交わすだけでなく、自らが役所に向けた要望書を「代弁」して書いてしまう。そして、障害者施設団体の要望として、市役所の上司に提出していた。現場で議論して、「これがベストだ」と判断したことを、行政の立場で進めていたのだ。
「当時、事務所には役所向けと団体向けの文書を書くワープロが1台ずつあった。その人は役所向けのワープロを使って要望書を書き、『こんな要望が来ています!』といって市役所を動かしていた。こんな職員がいるんだな、と驚きでしたね」
現代ならば、問題になりかねないことではあるが、こうした「規格外」の役人と接した経験が、地域との向き合い方や、協力してことを進めていく感覚を養っていった。