また財新伝媒を創業した胡舒立は王岐山と近しい。

 王岐山は現国家副主席、そして習近平政権第1期目では中央規律検査委員会書記として反腐敗キャンペーンの陣頭指揮をとって官僚汚職を成敗してきた。彼の反腐敗キャンペーンにおける功績は間違いなく習近平政権の地盤固めに寄与したはずだが、今は王岐山と習近平の信頼関係は完全に崩れている。王岐山は実務能力にたけた有能な官僚であり、習近平が王岐山に自分の権力が脅かされるのではないかと恐れたため、と言われている。だから、習近平は王岐山の海南航空集団における利権をつぶし、圧力をかけたのだ、と。一時、ドイツ銀行やホテル大手のヒルトン・ワールドワイドの筆頭株主にまでなった海南航空集団は今年2月に破綻し、事実上国家接収された。創業者の一人の王健は2018年にフランスの片田舎で謎の事故死。もう1人の創業者で会長の陳峰はCEOの譚向東とともに今年9月、逮捕されている。容疑は伏せられて「犯罪に関与」とだけ報じられている。

 つまり習近平にとって王岐山はすでに政敵であり、王岐山から恨まれている自覚もある。来年秋に長期独裁政権を打ち立てる前に、反撃に出られるのではないかと恐れているとしたら、王岐山が財新のような国内外に影響のあるメディアを使って世論誘導戦を仕掛けてこないように財新は締め付けておく必要がある、などと考えたかもしれない──もっとも、これはあくまでも私の勝手な想像であるが。

習近平国家主席を支えて反腐敗キャンペーンを進めたが、今や習近平の「政敵」と言われる国家副主席の王岐山(2021年3月4日、写真:ロイター/アフロ)

精神の自由と知性を奪う独裁者

 もう少し俯瞰的に見れば、習近平は鄧小平の改革開放路線から毛沢東回帰路線に逆走中で、経済成長よりも、格差を解消して「共同富裕」を実現することを優先し、「国進民退」(国有化を進め民営企業を排除)路線をあらゆる領域でやり始めている。国有化を通じて、不動産市場も、教育産業を通じた子供の思想教育も、ネットやエンタメを通じた世論誘導も、習近平はすべてを完璧にコントロールしたいのだ。ニュースメディアもそうだ。

 だが、すべての統制の中で、メディア、報道のコントロールは、人の精神の自由と知性を奪う最も悪辣な独裁者の手法である。習近平よ、ここまでやるか、という思いだ。

 今年のノーベル平和賞は初めて「報道の自由」がテーマになり、フィリピンのマリア・レッサとロシアのドミトリー・ムラトフという、独裁権力と戦う2人のジャーナリストに授与された。中国ではこのニュースは国営華僑向け通信・中国新聞社が速報を流した後、すぐに報道規制対象となっている。ノルウェー・ノーベル委員会は今年のノーベル平和賞にもう1人、たとえば蘋果日報(ひんかにっぽう、アップルデイリー)を創刊し、今は獄中にある黎智英(ジミー・ライ)のような中国の独裁権力と戦うメディア人を加えるべきだった。そうすれば、たとえ中国で報道規制にあっても、中国国内の記者やメディア人たちにひそやかに伝わり、今後、より一層厳しくなるであろうメディア冬の時代を生き抜くために多少の勇気を与えてくれたであろうに。