岸田文雄新政権で経済安全保障担当大臣に任命された千葉県選出の小林鷹之氏(10月4日、写真:ロイター/アフロ)

 最近、メディアで「経済安全保障」という言葉をよく耳にするようになった。

 政府が6月18日に決定した「経済財政運営と改革の基本方針2021(骨太の方針)」では、「経済安全保障の確保等」が項目の一つとして明記された。

 また、岸田文雄新政権では「経済安全保障担当大臣」が新設された。

 ところが、筆者を含め多くの読者は、「経済安全保障」の意味が分からないのではないかと思う。当然である。

 我が国(政府)には「経済安全保障」についてまだ確たる定義はないのである。

 かつて、大平正芳首相の委任を受けた総合安全保障研究グループが 1980年に「総合安全保障」に関する報告を行っている。その中で「経済的安全保障」が議論されている。

「経済安全保障」と「経済的安全保障」とは何が違うのであろうか。「経済的安全保障」については後述する。

 さて、今日、注目されるようになった「経済安全保障」の先鞭をつけたのは、ルール形成戦略議員連盟(会長・甘利明氏はじめ自民党国会議員66人)による「国家経済会議(日本版 NEC=National Economic Council)」創設の提言である。

 同提言は2019年3月20日に公表された。同提言では、現下の国際情勢を鑑み、我が国が生き抜くために、米国のNECに倣った戦略的外交・経済政策を練り上げる「国家経済会議(日本版 NEC)」の創設を提言した。

 また、同提言では、米国のNECについて次のように述べている。

「米国は1991年からNECを設立しているが、中国のエコノミック・ステイトクラフト(注)に対抗するためにはNECをさらに発展させなければならないと考え、現在、再構築に取り組み始めた」

「そして、ファイブアイズをはじめとして、日独仏は同調が求められ始めている。そして、日本に対してもエコノミック・ステイトクラフトに関するインテリジェンスを共有し、政策を包括的に構想して民間企業を巻き込んだ実行を担う日本版 NEC の創設を求める声が上がり始めている」

 現行の日本の国家安全保障会議は、外交・安全保障の司令塔として、国家安全保障に関する諸課題につき、4大臣会合(総理、官房長官、外相、防衛相)を中核として、日常的、機動的に審議する場を創設している。

 確かに経済安全保障への言及はないが、「9大臣会合」が必要に応じて開催され、多角的な観点から安全保障の重要事項について審議するとなっている。

 上記提言と足並みを揃えるように、各省庁に「経済安全保障」に関連する組織が次々と新設されている。

 さて、2020年12月22日、自由民主党政務調査会と新国際秩序創造戦略本部は、提言「『経済安全保障戦略策定』に向けて」を公表した。

 ちなみに、2020年6月の新国際秩序創造戦略本部設立時の本部長と座長は、それぞれ岸田現総理と甘利現自民党幹事長である。

 同提言は、米国と中国の経済的な対立を踏まえ「国際経済が分断されかねない新たな状況も生じている」と指摘し、「わが国の独立と生存および繁栄を経済面から確保する」ための経済安全保障戦略の策定を政府に求めた。

 また、経済安全保障戦略に法的根拠を持たせるため、令和4年の通常国会で「経済安全保障一括推進法」の制定を目指すよう求めた。

 提言には重点的に取り組む課題として、次の16項目が挙げられている。