(舛添 要一:国際政治学者)
8月15日、タリバンはアフガニスタンの首都カブールに無血入城し、政権を奪取した。ガニ大統領は国外へ脱出した。このような情勢の急展開はなぜ起こったのか? そして、今後の展望は描けるのか? 中国は早々にタリバンの政権掌握を事実上容認するなど、関係構築にいち早く動き出している。関係諸国の思惑も踏まえ、アフガン情勢を解説しよう。
腐敗はびこり、統治能力乏しかったガニ政権
まずは時計の針を20年前に戻してみよう。2001年9月11日、アメリカで同時多発テロが発生した。テロの首謀者はアルカイダだったが、そのリーダーであるオサマビンラディンを匿っているのがアフガニスタンのタリバン政権だとして、米軍は「自衛のため」という名目でアフガニスタンに軍事侵攻した。その結果、2カ月でタリバン政権は崩壊し、アメリカを中心とする国々の支援でカルザイ暫定政権が成立した。
2004年1月には民主的な憲法も公布され、10月には大統領選挙が行われ、カルザイが当選して初代大統領となった。これにより、それまでイスラム原理主義のタリバン政権の下で抑圧されていた女性の権利が尊重されるなど、新しい国造りが始まったのである。
2002年1月には東京でアフガニスタン復興支援会議が開かれ、日欧米、サウジアラビアなどが多額の拠出を決めていた。このような世界各国の経済的支援もあり、民主国家アフガニスタンの建設が始まったかに見えたのである。
しかし、タリバンは次第に勢力を復活させ、各地で攻勢に出はじめた。一方、新生アフガン政府は、腐敗がはびこり、統治能力に欠け、アメリカの支援がなければ動けないような傀儡政権化していった。アメリカが巨額の資金を投入して訓練し、武器を与えてきたアフガン政府軍は、今回のタリバンの攻勢に対して、戦わずして逃亡してしまった。何の役にも立たない代物だったのである。政府軍兵士が放棄した武器は、タリバンの手に渡っている。