この動画の内容は、CNN、ニューズウィーク、ラジオ・フリー・アジア(RFA)といった米国メディアによっても詳しく報道された。米国政府はまだコメントをしていないが、たとえ「民間」とはいえ中国側の組織が日本への核攻撃を宣言したことは、同盟国の米国に波紋を広げた。
中国研究の専門家たちも、多くが反応した。その一例として中国の軍事戦略に詳しい前米国海軍大学教授で現在はワシントンの大手研究機関「戦略予算評価センター」上級研究員を務めるトシ・ヨシハラ氏の見解を紹介しよう。ヨシハラ氏は次のような見解を述べた。
・米欧側では、「中国の政府や軍の公式の戦略ではない」としてこの動画を軽視する向きも出てくるだろう。動画が中国当局によりすぐに当初のサイトから削除されたことも軽視の理由になるかもしれない。だがこの動画が示しているのは、中国側全体の日本に対する国家的、国民的な感情だという大きな構図を見失ってはならない。憎悪に満ちたナショナリズムの扇動なのだ。
・この種の対外嫌悪は中国共産党政権により意図的に奨励されている。とくに日本の国家と国民に対する敵対心は中国の一般だけでなく、エリートと呼べる政策形成層にも深く根を下ろしている。この種の歪んだ対日観は、戦略的な危機に際して間違った判断、錯誤の決定を生む危険が高い。だから日米両国はともに中国のそうした歪みを是正する必要がある。
・さらに懸念されるのは、どのような条件下で中国当局が公式の核戦略から逸脱するのかという疑問を、この動画が提起した点だ。中国政府が日本への核の威嚇をどんな状況で行使するのかを、日米同盟として考えなければならない。近年、人民解放軍が核戦力を拡大し、とくに米国には届かないものの日本を射程に納めたDF-26のような中距離弾道核ミサイルの増強を急いでいることを日米両国は警戒すべきだ。
以上のようなヨシハラ氏の分析をみても、今回の動画は日本側が決して無視することはできない中国側の新しい日本核攻撃論だといえよう。