木崎伸也氏の連載企画第2回は、戸塚宏氏へのインタビューを実施。今回は中編を掲載する。
前編「戸塚ヨットスクール校長語る「俺は偏差値秀才だった」」はこちら
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65570
(木崎 伸也:スポーツライター)
「できるわけがない」ことで1秒を削る
——戸塚さんは名古屋大学卒業後、ヨットマンとして活躍し、1975年、35歳のときに沖縄海洋博記念「太平洋—沖縄・単独横断レース」で優勝しました。レースでは1日合計4時間しか眠らず、さらにその睡眠も15分ごとにアラームをかけて目を覚ましていたそうですね。
この方法は自分の発案じゃないんよ。他のヨットマンが書いた本から学んだんだ。
大西洋横断レースで優勝したヨーロッパの人の本を読んだら、10分睡眠で優勝したと書いてあった。本の中にどうしても起きられず1時間寝てしまい、ものすごく罪の意識にかられる場面が出てくる。
大西洋のレースでも、太平洋のレースでも、やるべきことは同じ。自分もやらんといけないと思った。
1日合計4時間の15分睡眠を41日間続けるなんて、できるわけがないじゃないかというのがみんなの反応や。でも俺はやったで」
——事前に15分睡眠を練習したんですか?
練習してできるもんやない。その場になるからできるんやね。
夜11時くらいに、ポンとスイッチを入れて寝るんだ。するとあっという間に寝ちまうよ。でも寝たと思ったらアラームが鳴っとるんや。
それが最初の15分よ。ぼーっとしてるように感じるやろ? とんでもない。それこそ薬を打ったみたいにシャキッとしとるわ。
経験ない? 高速道路を運転していて、どうしても眠たくなって、サービスエリアで寝るやろ。そのときにラジオをつけとくんや。そうすると15分たったらラジオがうるさくて起きるわ。目がぱっちりしとる。10分でもええんやろうけど、あれはものすごくええんや。
——15分寝て、操作して、また寝る。想像するだけでつらいです・・・。
風は決して安定せんのやからね。強さも方向も変わるんだ。それに合わせて走らんと。
太平洋横断って非常に長いレースだから、ちょっとくらいええやないかという気になるんやけど、それだけがんばって1秒負けたら負けなんや。
だから1秒をけちらんことにはね。
——41日間で怠けた日はなかった?
あったよ。たとえばね、台風が来たときには、ヨットがただ流れとるだけという状態になるわけよ。風が強すぎて走れんから。
そのときは長めに寝るんやね。最初は30分くらい寝て、そいつを繰り返していたら、いつの間にか夜が明けて『しまった寝すぎたな』と思った。
ただ、そんなに方向も変わってないし、セールも小さくしてあるから大丈夫だった。
——荷物をいかに軽くするかを考え、水の量も最小限にしたそうですね。
40日かけて先頭を走っても、最後に1秒の差で負けることもありえる。その可能性をとことん消してかなきゃいかんのや。
荷物が重いと、ヨットは遅くなるじゃん。だから一番重い水の重量を減らさないかんのや。水は最小限の量にした。
規則として、1日4リットルで60日分を積まなければならないというルールがあった。合計240キロ。
(勝つためには)そんなもん詰めるかってことよね。積んでいくべき水の量は指定してあるけども、使い方は指定してないじゃん。だから捨てちまえばええと思った
1ガロン(約3.8リットル)で2日と計算して、1ガロンの水のパックを20個(計約76リットル)買って船底にしきつめた。
——スタートして余計な水を捨てたんですか?
そうそう。ヨーイドンがなったときにざあぁーっと海へ。そんなことをやっているやつは他にいないよ。みんな自信がないんだから。