文中敬称略
4月23日に米大統領ジョー・バイデンは露大統領ヴラジミール・プーチンとの電話会談で米露首脳会談を提案した。
その後、やはり米側の提案で行なわれた外相会談や、安全保障担当責任者同士の会談で瀬踏みを行なった上で、1か月余りを経てロシアは漸くこの提案を受けて立つ旨を回答した。
6月16日にジュネーブで首脳会談は行われる。しかし、会談の筋書き詳細は、これから後追いで会談までの間に双方の実務レベルで詰めねばならない。双方の腹の探り合いは、EU・NATO(北大西洋条約機構)も巻き込んで会談当日まで続けられるだろう。
多くのロシア国民は、今の対米関係が自分たちの経済や生活に影響を及ぼすと感じている。米国主導の対露経済制裁には反発を覚えるものの、制裁を受ける立場に置かれ続けることは精神衛生上、甚だ宜しくない。
ともかく米国に譲歩を強いてでも関係改善が図れれば、との期待が国民の意識の底流にある。
それを承知しているからこそ、なのか、会談がどのような結果になるのかについて、(米国も異なる理由でそうなのだが)露紙が報じるロシアの政府関係者や在野知識人の発言は軒並みどこか冷めたものになっている。
大統領府報道官のドミトリー・ペスコフはメディアに対して、過大な期待は抱くなと事前警告まがいまで発している。
大して期待されないように見える首脳会談の結果予想はといえば、米露のメディアで以下が報じられている:
・今回は対話の開始であり、それ以上のものではない。
・合意の進展があるとすれば、双方の利害が一致する問題についてのみ。すなわち、核兵器管理(SALT-3、中短距離ミサイル、など)、COVID-19対策、イラン・北朝鮮・アフガニスタン問題、それに双方の外交官活動の正常化。
・ウクライナ、ベラルーシ、アレクセイ・ナヴァーリヌイ問題については、双方ともに妥協の余地なし。従って関係の「リセット」や制裁解除など全くの問題外。
確かに、ソ連崩壊後の30年で最悪と言われるところまで落ちた米露関係が、たかが1回の首脳会談で劇的に変化するなど、期待する方がどうかしている。
ならば、とりわけロシア批判を強めてきた米民主党の大統領が、なぜ突然この時期に首脳会談を提案してきたのか――これがロシアにとって判然としない。
振り返れば、バイデンは3月に、プーチンは「殺人者」だ、と述べるに等しい発言をメデイアとのインタビュー会見で行っている。
(https://abcnews.go.com/Politics/biden-talks-cuomo-putin-migrants-vaccine-abc-news/story?id=76490303)。
元々ロシアに対しては厳しい態度を隠してこなかった彼である。
(https://www.foreignaffairs.com/articles/russia-fsu/2017-12-05/how-stand-kremlin)
従って、この発言には当然ながらロシア内の保守派・対外強硬派が憤激し、もはや対米関係は終わりに等しいとばかりに論じ合った。