鉄鉱石や砂鉄から鉄の塊を製錬するには、鉄の融点である1,500度以上の高温の炎を作れなければいけない。そんな炎をどうやって起こせるのかも手探り。高熱の炎を出せる燃料はどれか?から探さなければならない。
こうしてなんとか鉄を精錬できても、最初は屑鉄のような粗悪なものしか作れないだろう。これを材料に日本刀を作っても、使い物にならない。玉鋼のような高品質の鉄を作り出すには、気の遠くなるような試行錯誤が必要となる。
基礎研究とは料理の下ごしらえ
おいしい料理には、下ごしらえがある。
絶品の豚骨ラーメンを提供するなら、豚骨を何時間も鍋でグラグラ煮込む下ごしらえが欠かせない。下ごしらえなしにラーメンの中に生の豚骨をゴロンと入れたところで、あのおいしいコクは出せない。
おいしい漬物を提供するには、良質な野菜を厳選し、適度な温度で管理しながら適切な日数の発酵を進め、食べ頃にお客さんに出せるようにしないといけない。下ごしらえなしだと、生の野菜を刻んだだけで出すようなものだ。そんなのは漬物じゃない。
基礎研究とは、いわば「下ごしらえ」研究だ。
日本刀も料理も、作品を作り出すには、丁寧な下ごしらえをした良質な素材がカギとなる。下ごしらえがきちんとできていれば、あとは整えていくだけだ。もちろん、その後の工程を軽んじてはいけない。ただ、下ごしらえなしではおいしい料理にはならないし、切れる日本刀を鍛えられないことは明らかだ。