スウェーデンの精神科医、アンデシュ・ハンセン氏は「人間の進化の見地」から、スマホによる人間の脳や心身への影響を分析してきた。前作『一流の頭脳』(2016年)はスウェーデンで60万部のベストセラーとなり、世界20カ国以上で翻訳されている。
私たちは1日に平均して2600回以上スマホを触り、10分に1回スマホを手に取っている。3人に1人は(18歳から24歳では半数が)夜中にも少なくとも1回はスマホをチェックする。今やあまりにも当たり前に私たちの生活に入り込んでいるスマホやSNS。しかし、スマホが絶え間なく私たちの気を散らし続けることによって、脳は蝕まれ、睡眠障害やうつ、集中力の低下を引き起こすリスクがある。
スマホが持つ中毒性や依存性、わが子にデジタル・デバイスを与えないIT企業幹部たち、削がれ続ける集中力の保ち方、SNSで低くなる若い女性の自己肯定感、スマホに翻弄されない手段について──。『スマホ脳』(新潮新書)の著者であるハンセン氏に話を聞いた。(聞き手:長野光 シード・プランニング研究員)
──メッセージのやり取りやSNS、エンターテインメントやゲームなど、たくさんの刺激をもたらすスマホがドーパミンを放出させ、その結果、人間はスマホがないと麻薬が切れたように禁断症状を感じることがある、と本書で述べられています。人間はどれほど強くスマホに依存しているのでしょうか。
アンデシュ・ハンセン氏(以下、ハンセン):人間の脳は、考えたり、心地よいと感じたりするためにあるのではなく「生存のため」にあります。狩猟・採集をしていた時代と現代社会とでは、人間のライフスタイルは大きく違います。しかし、生物学的には人間の脳は変わっていません。私たちの脳は、デジタル社会に適応するようにできていないんです。
私自身もスマホのない生活はできないし、その利便性はよく理解しています。デジタル社会のすべてを否定するつもりはありません。しかし、スマホが一般的になってからのこの10年間、人類の行動やコミュニケーション、お互いを比べ合う手段は非常に大きく変化しています。それは私たちの脳にとって未知の世界です。長期的な影響についてはまだ何も分かっていません。
私たちはスマホを気にしないで1日を過ごすことは、もうできなくなっています。新しいニュースがあるかもしれない、メールやメッセージが来ているかもしれない。自分のスマホがどこにあるか、常に把握しておきたい。ドーパミンは、この「かもしれない」という期待に反応します。