電柱の地中化でスズメはどこに行く?

──スズメが都市以外に進出していくことや、現在の都市にいる鳥(スズメやハト、カラス)の顔ぶれが今後変わっていくことはあるのでしょうか。

三上:古い文献などを見ると、スズメ、ハト、カラスは平安時代には人に身近な鳥として出てきます。そのくらい昔からいます。一方で、ご質問のように、ここ数十年間、地域によっては、ハクセキレイやイソヒヨドリなど今までは町中にいなかった種が入ってきています。逆に町中から去っていった種もいます。そのような入れ替わりが今後も起こることは否定できません。

 しかし、長い間都市にいるスズメ、ハト、カラスの中でも、特に現在のスズメの地位を奪う鳥は当面出てこないのではないかと思っています。スズメは、人間の作った構造物をうまく使いますし、人間に寄り添いつつも警戒しながらうまくやっています。この器用さは、他の鳥がおいそれとは真似できそうにはありません。

──電柱に作られたスズメの巣を狙ってやってくるヘビや、カラスが巣を作ることで停電が起きることがあります。どのようにしていけばいいとお考えですか。

三上:いろいろな考えをお持ちの方がいらっしゃるので、はっきりこうだとは言いにくいのですが、私は適度に対処しつつ、かといって完全に排除してしまわない方がいいのではないかと思っています。

 現在、電力会社は停電が起きて我々の生活が困らないように、スズメが腕金の中に入れないように蓋をつけ、春になると見回って、カラスの巣を撤去して妨害装置をつけるなどの対策をしてくれています。これらを今以上に徹底すれば、停電をなくすことができるかもしれません。しかし、そういった作業には危険も伴いますし、コスト(お金と時間)もかかります。

 それらのコストを我々が受け入れて(例えば、かかる費用を電気料金に上乗せするなど)、上記のような作業を電力会社の方に徹底してもらうと、スズメもカラスも子育てができなくなってしまうかもしれません。そうすると、スズメやカラスは町中からいなくなって、それはそれで寂しい部分もあると思うのです。

 町は人間のための環境ですが、そこにわずかな自然として鳥たちがやって来てくれています。電柱や電線に止まっている鳥を我々が見て楽しむ利点も残っている方がいいのではないでしょうか。また、スズメやカラスは、町の中で害虫を駆除してくれることもあります。そういった効果が失われてしまうのも、我々にとっては損かもしれません。いろいろな人が知恵を出して、鳥たちが起こす問題を抑えながら、鳥がいてもいい状況を作り出していくのがいいのではないかと思います。

──今後、電線が地中化、あるいは無電柱化されていけば、鳥と電力会社の問題も解決されて闘いも終わるだろうと述べられていますが、電柱・電線がなくなったらスズメやカラスはどこに行くのでしょうか。

三上:わからないです(笑)。電柱が地中化された場所では鳥がどうしているか、調べたこともあります。しかし、現在のところ、電柱・電線が地中化された場所は、景観がいいところやオフィス街が多いので、電柱・電線が残っている住宅地とはそもそもの条件が違いすぎて比較するのが難しいです。

 電柱・電線が登場したのはここ100年くらいのことだし、本格的に普及したのが戦後だと考えれば、ここ70、80年くらいのことです。その間に鳥たちはそれをうまく利用してきたので、電柱・電線が地中化されたら、また別の場所を利用してうまくやっていくのではないでしょうか。

 あるいは停電が起きないのであれば、あえて鳥たちに巣場所を提供するようなまちづくりも考えられるかもしれません。個人的には電柱の地中化や無電柱化は、電柱・電線を見る楽しみがなくなってしまうので少し寂しいですが、なくなっていく変化を楽しみたいとも思っています。(構成:添田愛沙)

『電柱鳥類学』の著者、三上修・北海道教育大学函館校教授インタビューはこちら