厚生労働省のシステム開発能力や発注能力の低さを満天下にさらした新型コロナ接触確認アプリ「COCOA」(写真:森田直樹/アフロ)

 少子高齢化と人口減少が進むわが国の社会の質を維持し、さらに発展させるためには、データの活用による効率的な社会運営が不可欠だ。一方で、データ活用のリスクにも対応した制度基盤の構築も早急に求められている。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって、これまでの経済、社会のあり方は大きく変わろうとしている。

 その中で、日本が抱える課題をどのように解決していくべきか。データを活用した政策形成の手法を研究するNFI(Next Generation Fundamental Policy Research Institute、次世代基盤政策研究所)の専門家がこの国のあるべき未来図を論じる。今回は理事長の森田朗氏による、ワクチン接種に関する情報の作成と共有の仕組み、すなわち国民医療情報システムの構築について(過去15回分はこちら)。

ワクチン接種は史上初の国を挙げての大事業

(森田朗:NFI理事長)

 新型コロナウイルス感染症の拡大が止まらない。緊急事態宣言などでも完全に押さえ込むことが不可能ならば、ワクチンにすがるしかない。有効で安全なワクチンを、できるだけ早く、できるだけ多くの国民に接種し、この忌まわしいコロナ禍から社会を解放しなければならない。

 しかし有効なワクチンが確実に希望者に接種されるのか、それは本当に有効なのか、接種直後のみならず、長期にわたって副反応はないのか、あるいはあっても軽微なものなのか、それは未知の世界のことだ。急速に世界中に蔓延した感染症に対して、人類史上初めて極めて短期間で開発したワクチンを、世界の何億人もの人々に接種しようというのが今回のケースなのである。

 国は、大多数の国民に接種すべく、市町村を通して接種を行う仕組みを作り、接種を開始した。まずは、医療従事者、次いで高齢者への接種が始まっているが、これは史上初めての国を挙げての大事業であり、しかも多数の国民の健康に関わる事業だ。

 ただし、現状ではワクチンの供給は遅れている。早い接種を求める者に対する偽ワクチン接種などの詐欺や、海外渡航の場合のみならず、国内でも接種証明が求められるようになると、優先的に接種を受けるためのなりすまし等が発生するかもしれない。

 このような事態を避け、国民が安心して接種を受けるためには、対象者に正しく接種することだけではなく、その後の健康状態の観察や、もし重篤な副反応が現れた場合などに備えるための仕組みをしっかりと構築しておく必要がある。