富士総合火力演習(2020年5月23日、陸上自衛隊のサイトより)

 中国の武漢で発生したとみられる新型コロナウイルスによって世界が呻吟するのを横目に開いた全国人民代表大会(全人代)で、中国は自由主義国家の弱点露呈は攻勢のチャンスととらえ、覇権を目指す意図を一層堅固にしたようである。

 米国で新たに登場したジョー・バイデン政権は、軍事力増強で目的達成に邁進する中国を牽制するために、価値観を同じくする諸国、中でも同盟国と連携して中国の覇権指向に対処する方針を打ち出した。

 早速、日米の外交・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2+2)が対面形式で開かれ、共同声明で日本は「国家の防衛を強固なものとし、日米同盟をさらに強化するために能力を向上させることを決意した」と明記した。

 2020年末に令和3年度の防衛予算案が公表されたとき、各紙は「7年連続・過去最高の防衛予算」と書いたが、間もなく正式に決まる。

 その時はより大きなゴシック字体で類似の文句が紙面を飾るに違いない。それを見る国民の中には自衛隊が戦争準備をしていると思う人がいるかもしれない。

 計上された防衛予算で、本当に「国家の防衛を強固なもの」にすると言えるのだろうか。

 また、「日米同盟をさらに強化するために能力を向上させる」という決意は、しばしば米国の要求として語られる「応分の負担」に応えるのだろうか。また、米国がNATO(北大西洋条約機構)に要求しているものと同水準のものだろうか。

草笛光子さんの憤り

『週刊文春』(2021.3.11号)に女優の草笛光子さんが書いたエッセー「きれいに生きましょうね」を読んで、「感激した」という感想と共にコピーを友人が送ってきた。

 エッセーは令和元年に来日したローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇が戦争の恐ろしさ、愚かさを訴えるために持ち込んだ「焼き場に立つ少年」という写真をみながら綴られている。

 この写真を多くの人は見たことがあるに違いないが、参考までに申し添えると、小学校中学年くらいの坊主頭で汚れた裸足の少年が、歯を食いしばって頭を後ろに垂れた死んだ弟を背負い火葬の順番を待つ姿である。

 戦時中の疎開先で5歳の妹を亡くした草笛さんは、件の写真を前に「ローマ教皇がこの写真で、戦争や原爆の怖さを世界へ知らしめようとしているのに、日本は何をやっているんでしょう。それが恥ずかしくて私は憤っているんです」という。

 続けて「日本を守っているつもりになっている方々は、あの少年の写真を見て、絶対に戦争をしないと念じて欲しいと思います。私たちが涙を流すだけでは、どうにもなりませんもの。もしも日本が戦争のほうへ向かいそうになったら、あの写真を持って行って見せればいい。それで気付かないようなら、国を守る立場をやめていただきたい」と書いている。

 この部分に友人は赤線を引いていた。