3 新海洋国家同盟へ脱皮を

 筆者も執筆に加わった前掲書『日本と中国、もし戦わば』では、この防衛戦略を「アジア太平洋・インド地域防衛戦略」と呼称し、米国と印豪を含んだ第1列島線の国々の通常戦力による防衛体制を論じた。

 米国は「インド太平洋戦略」(2019シンクタンクのCSBAが発表した海洋圧迫戦略と同じ)としてこれを具現化し始めている。

 これに呼応して、インド太平洋軍は具体的な装備や態勢の確立に動き始めると共に、2021年には太平洋において大規模な海軍・海兵隊および陸軍の演習を実施することを公表している。当然空軍も参加するだろう。

 このような動きは日本や台湾とも考え方を共有しており、米国の政治が多少ぐらついても、世界一の実力を持つ米軍は健在であり、このため米軍との信頼関係を深め、協力していくことが極めて重要である。

 このインド太平洋戦略に英仏独なども参画する意志を持っていることから、今後この戦略はもっと大きな広がりを持つ「中国を封じ込める自由主義国連合」とも「新海洋国家同盟」などと呼称するのが適当ではないだろうか。

 その真の姿は、当初述べた「中国を封印する三重の包囲環」である。

 トランプ政権だったらロシアを含め確実に2年内に三重の包囲環は完成しただろう。しかし、バイデン政権がロシアを米国の敵として中国に追いやったことは、戦略上の大きな痛手である。

 そうではあっても、依然として包囲環を築くことは非人道国家中国に対する自由主義国家の強い意志が結集すれば可能であろう。

 この戦略の中核に日本は立たなければならない。

 なにゆえに日米の外務・防衛相の2+2が先陣を切って日米で開催されたのか。

 暫定指針に「同盟関係を強化すれば脅威が波打ち際に到達する前に脅威を打ち砕く力と能力を増幅するだろう」とあるように、すなわち同盟国は米国の防波堤なのである。

 これがバイデン政権のみならず米国の本音であり、それゆえに同盟国の防衛にコミットするのである。

 米国が中国に熱心であろうとなかろうと、日本はこんな防衛費で戦えるのか?

 国防軍でなくて本当に国を守る役割が果たせるのかと日本が問われている事を理解すべきだろう。

 日本が覚醒して中国に対する強力な包囲網の完成を主導し、自由主義国家の力を結集して、中国に打ち勝つドクトリン(戦い方)に基づき堅固な意思と能力を明確にすることで、戦う前に中国に武器を置かせること、即ち中国の軍事的冒険の意思を断念させることしか道はないと覚悟すべきだ。