(福島 香織:ジャーナリスト)
3月11日に閉幕する今年の全人代(全国人民代表大会)。香港の選挙制度“改悪”といった注目点はあったものの、例年に比べて会期が短めということもあって、実のところ、あまり存在感を感じなかった。
李克強首相の政府活動報告の読み上げも、けっこう内容を飛ばし気味で、投げやりのような印象を持ったのだが、私の考えすぎだろうか。読み上げ時間は1時間ほどで、例年よりもかなり短い。国営メディア「新華社」の配信する活字版の政府報告と読み合わせると、かなり読み飛ばしと読み違えが多いが、これはわざとかもしれない。
実際、習近平と李克強の溝は年ごとに深まっているようで、その結果が、今年の全人代で審議された「全国人民大会組織法修正草案」につながっているのではないか、と思えてしまう。なぜなら、この組織法修正案は、明らかに李克強首相権限の圧縮が目的にみえる。習近平の「李克強いじめ」がエスカレートしている気がしてならないのだ。
全人代でも顕著だった2人の対立
習近平総書記と李克強首相の関係がよくないことは、これまでの言動でもみてとれる。
たとえば昨年(2020年)の全人代を振り返れば、習近平が絶対的貧困をなくす脱貧困キャンペーンの実現に自信をみせたところ、李克強は1カ月に1000元以下しか収入のない相対的貧困人口がまだ6億人もいることを暴露して、習近平の機嫌を損ねてしまった。また李克強は、民営企業や個人経営を支持し、屋台経済を活性化させよ、と訴えたが、習近平の子飼いの部下の北京市の書記の蔡奇らは、習近平の考えを忖度して屋台が違法経営だとして取り締まり強化を打ち出し、李克強の進めようとした政策を阻害した。