一緒にたくらめるクライアントがいい

 CMは受動的に見るものだ。一方、ネットのコンテンツは消費者が興味のあることを能動的に見るもの。しかし多くの企業が、今までのCMと同じ文脈で企業情報をSNSで発信し、動画を作成している。受け取る側は敏感で、エンタテインメント性がないと思えば目を向けない。YouTubeや様々な企業のサイトには、ほぼ再生されていない企業の動画が山のように存在する。

 ここを変えるのがチョコレイトなのだ。では、どんなクライアントがチョコレイトと相性がいいのか。

「当社は“クライアントの言う通りにつくる”会社ではありません。あ、もちろんクライアントの意向を無視する、というわけではなく──クライアントの目的を伺いつつ、消費者の皆さんが楽しんでくださる面白いものを我々が企画し、制作していきます。なぜなら、それくらいでないと、消費者に面白がってもらえるものは創り出せないんです」
 
 逆に、チョコレイトはどんな仕事がしたいのか。

「可能であれば、商品設計にも加わらせていただきたいですね」

 例えば星野リゾートが運営する『星野リゾート BEB5(ベブファイブ) 軽井沢』には「一生ネタ!ハプニングステイ」というプランがある。フロントのスタッフに『本日のルームナンバーはこちらです』と数学の式を渡され、渡されるキーホルダーがポケットにもバッグにもとても入りきらない巨大なサイズだったりする。

「面白いですよね。しかしこれ、多くのリードタイムやコストがかかるわけでなく、既存の商品をアレンジして面白くしているんです。これと同じように、商品を見て、私たちからコミュニケーションをご提案させていただけたらうれしいですね」

 最後に、こんな動画を紹介したい。彼らは新しいエンタテインメントの形をつくることにも挑戦している。例えばYouTuber/Artistのあさぎーにょ氏の動画「もう限界。無理。逃げ出したい。」だ。

18分52秒もあるYouTube動画「もう限界。無理。逃げ出したい。」の一場面。エンタテイナーのロードムービーのような雰囲気

 チョコレイトの映像監督、脚本家、音楽プロデューサー等が加わって制作した。2019年の12月末に公開するや、YouTubeの急上昇ランキング1位に躍り出て、再生回数はすぐ300万回を突破、芸能人が「面白い」とコメントを付け、2020年2月には中国の微博(ウエイボー)に中国字幕を付けて投稿すると、デイリーランキング1位を獲得した。

 実はこれも、サントリー食品インターナショナル「デカビタC」のスポンサードがあってつくられたもの。「テレビや広告だけでは十分アプローチができず、デジタル広告でリーチしても無視されてしまう若年層に対し、質の高いエンゲージメントを確立するための新しいブランドコンテンツ開発」が課題だったのだという。プレイスメントは一部にとどまるが、ストーリー全体を通じて1日を全力で駆け抜けるという商品の持つ世界観を体現している。

 単に知名度を上げたいのでなく“面白がってもらいたい”時に頼りになる企業、実はこれ、ありそうでなかったかもしれない。

◎取材、文/夏目幸明(IZUMO)