このデジタル人民元は法定通貨と同様の価値と地位を持つことが明言されており、紙幣として目に見える形で使用されている、現在の通貨とはなんら変わりがありません。紙幣としての1元とデジタル人民元の1元は同価値と定められています。

 中国ではクレジットカードによる支払いや、モバイルペイメントの支払いを受け付けないことがあります。一方、法定通貨としての地位が保証されたデジタル人民元は、取引の拒否が行われた場合は違法となります。

デジタル人民元がもたらす変化

 ではデジタル人民元の導入によってどのような変化が起こりそうでしょうか。

 まず予想されるのはテンセントやアリババを中心とする、デジタル経済圏の構造変化です。

「WeChat Pay」はテンセントグループ、「Alipay」はアリババグループによってそれぞれ運営されています。テンセントグループによるサービスを享受するためには「WeChat Pay」を使用する、アリババグループによるサービスを利用するためには「Alipay」で支払う、というように、両サービス間では相互での乗り入れが難しい状況にあります。

 テンセントグループもアリババグループも、それぞれの決済方法を制限することによって、ユーザーの囲い込みやグループ内でのユーザー情報の有効活用を図っています。これが、デジタル経済圏のカギを握っているのです。

中国のデジタル経済圏を支える構造

 デジタル人民元という新しい決済方式の登場で、今後テンセントやアリババはデジタル経済圏に対する新戦略が必要になると筆者は考えています。

 中国は、国内のサイバーセキュリテイ対策を、モバイルペイメントのプラットフォーマーと協力して実施しています。今後もテンセントやアリババと行政機関との間での情報共有は継続されるでしょうが、企業とデジタル人民元はビッグデータの取り扱いにおける競争関係になるかもしれません。

 次に考えられるのが、中国国内の経済政策への活用です。デジタル人民元の流通や消費状況を追跡することで、中国国内の経済状況や人口移動の把握、各産業の政策決定への活用が今後行われるでしょう。