日本政府の生産拠点国内回帰支援策の衝撃
日本政府は本年4月、新型コロナウイルス感染症拡大に対する緊急経済対策として海外生産拠点の国内回帰およびASEAN(東南アジア諸国連合)などへの生産拠点多元化を支援する補助金支給策を発表した。
予算規模としては国内回帰向けに2200億円、生産拠点多元化向けに235億円がそれぞれ計上された。
これに対して、6月下旬および7月下旬の2回に分けて合計 1700 件以上の応募があり、とくに2回目は補助金予定額1600億円に対して10倍以上の応募があった。
この数字が日本国内で大きく報じられ、多くの日本企業が中国市場からの撤退あるいは事業縮小を計画しているとの見方が広がった。
この報道の衝撃は大きかった。
4月の本政策発表直後から、中国の政府内外のエコノミスト、中国系メディアなどはこの政策によって多くの日本企業が中国国内の生産拠点を日本やASEANに移転させるのではないかとの懸念を抱き、筆者も多方面から繰り返し質問を受けた。
日本企業の動向に注目したのは中国系組織のみならず、欧米諸国からの質問も多かった。
つい最近も日本、中国、米国でのオンライン上の講演や面談の場で、この政策の影響により日本企業が中国市場から撤退しようとしているのではないかとの質問を受けた。
日本企業の投資動向への影響はほぼ皆無
以上のように多くの方々から質問を受けたこともあって、筆者自身も4月以降つい最近に至るまで、機会あるごとに日本企業の対中投資動向に詳しい専門家や中国に進出している日本企業の経営者の方々に投資動向の実態に関する質問を繰り返した。
そこから得られた結論は、上記政策による日本企業の対中投資姿勢への影響はほとんどないということである。
この実情を最も明確に説明してくれたのは日本企業の対中投資動向の全体像を正確に把握している日系メガバンクの幹部だった。
それも1行だけではなく、2行の幹部がほぼ同じ表現で次のように答えた。
「この政策の影響で対中投資姿勢を変えた日本企業はほぼ皆無である」
この結論は2つの事実によって裏づけられている。