その後、蘇州市でも導入実験が始まりました。1人あたり200元の配布は同じですが、対象が10万人に拡大しました。蘇州市での実験では実店舗だけではなく、ECサイトでの利用もできるようになりました。
デジタル人民元と連動した初のECサイトはJDグループ(京東集団)です。同社はモバイルペイメントやEC事業でテンセントとアリババに次ぐ3番手の企業です。テンセントやアリババではなくJDグループが選ばれたのは、従来のデジタル経済圏とは別のシステムを目指そうと意図したのかもしれません。
注目は2021年の春節
このあと、デジタル人民元の導入はどのように進むでしょうか。
導入実験が行われている成都市と雄安区での一般市民への導入は予想できます。
これに加えて香港での試験導入は十分にあり得ます。人民元の国際化で香港が重要な役割を果たしている点や、キャッシュレス経済が中国本土と比較すると成長途中であることなどが理由です(中国政府公式資料、http://www.gov.cn/xinwen/2020-08/03/content_5532218.htmより)。
一方、デジタルインフラが相対的に貧弱とされていた地域での、デジタル人民元の導入が提案されています。新華社通信や人民日報によると、中国の北西部の蘭州市やラサ市など、社会条件や消費動向が異なる地域にも実証実験が広がるようです(http://finance.people.com.cn/n1/2020/1207/c1004-31957173.html、http://politics.people.com.cn/n1/2020/1209/c1001-31960036.html)
中国でモバイルペイメントをはじめとするキャッシュレス社会が成長したのは、クレジットカードの普及やインターネット産業の発展が2000年代以降であり、先進国と比較すると後発のため新技術の導入余地があったからです。比較的デジタルインフラが整備途上である内陸の地域で、デジタル人民元の導入を図っているのは、このような理由かもしれません。
今後のデジタル人民元の実証実験における注目点は、2021年の2月の春節と見ています。
テンセントやアリババをはじめとするモバイルペイメント運営企業は、中国の新年にあたる春節にキャンペーン活動を行ってきました。モバイルペイメントでお年玉を贈ると抽選やキャッシュバックなどを行ったことが、デジタル経済圏の成長に寄与してきました。2015年の腾讯网の報道などによると、同年の春節ではテンセント、アリババ、バイトゥなどが現金で6億元、クーポンなどで64億元をユーザーに提供しました。
2021年の春節では、中国国内の景気刺激策を兼ねて、デジタル人民元の新導入や大規模な配布が起こるかもしれません。デジタル人民元は、モバイルペイメントと同様に3~4年という短期間で普及することあり得るでしょう。