これは地方の小さな「弁当屋」を大手コンビニチェーンに弁当を供給する一大産業に育てた男の物語である。登場人物は仮名だが、ストーリーは事実に基づいている(毎週月曜日連載中)

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平成14~15年:55~56歳

 おせち料理の製造を前日に完了し、一段落した大晦日の昼過ぎ、この日が最後の出社日ということで、恭平から源田に声を掛け社長室で二人は1時間近く話し合った。

「最後に、しつこいようだが同じことを言わせてもらう。『人間にとって財産とは、金銀宝石ではなく、友人だ。金銀宝石は簡単に失うが、友人は自らが裏切らない限り、失うことはない』そう言っていた学生時代の源田は、何処に行ってしまったんだ?貴様と裁判で争うなんて、今でも俺は信じられない」

 未練がましく、翻意を促すように語りかける恭平に、嘲笑交じりに源田は答えた。

「お前は裁判というものを知らんから、えらく深刻ぶって捉えているが、俺はアメリカでも仕事をしてきたから、それほど大層なことだとは思っていない。それに今回の裁判は、間違いなく、俺が勝つ。しかし、会社を潰すところまでは遣らんから、心配するな」

「はぁ、それは、どう言うことや?」

「これ以上会社を追い詰めたら、エンゼルスとの取引に支障が出るとか、銀行の融資が引き上げられると判断したら、どんなに俺が勝っていても、提訴を取り下げてやるということだ」

「ほぉ…」

「それと、今回の本当の喧嘩相手はお前じゃない。無能な取締役の奴らだ。しかし、ダイナーウイング株式会社の代表はお前だから、お前を相手に喧嘩をする。まぁ、裁判官が正しい判決をしてくれるだろうから、サラッとやろうや」

 近来になく穏やかな表情を装い、時に笑顔を浮かべながら、何故か自信満々に語って源田は部屋を出て行った。

 そして、「今の経営陣では、会社が潰れてしまう」とのビラを社員に配っていることを知ったのは、その直後だった。

 半年後、広島地方裁判所で行われた「従業員地位確認等請求事件」判決言渡は、「原告の請求のいずれも棄却する」ものだった。

 サラッとやろうと言った源田だったが、素直には納得せず広島高裁に控訴した。

 控訴すると同時に、エンゼルス本社や取引銀行に対し匿名で、内部告発と称する誹謗中傷文を送りつけた。

 暫く静観した後、ダイナーウイングの監査役でもある弁護士が、「今後、貴殿がかかる行為をした場合は、法的手段に訴えることになるので、その旨留意されたい」との通告書を源田実三郎あてに送付した。

 直後に、源田からの書簡が届いた。