これは地方の小さな「弁当屋」を大手コンビニチェーンに弁当を供給する一大産業に育てた男の物語である。登場人物は仮名だが、ストーリーは事実に基づいている(毎週月曜日連載中)
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平成14~15年:55~56歳
「来年5月の株主総会では、源田を取締役として再任しない。まだ半年近くあるが、出社には及ばぬから、再就職先を探してくれ」
「何故だ!俺に言わせれば、当社で取締役として機能しているのは、お前と俺だけだ」
「それは貴様の独り善がりな理屈だ。周囲の反対を押し切って、源田を取締役に推挙した俺自身にも責任がある。今さら何を言おうと、当社は貴様を必要としていないのだ。とにかく了解してくれ」
「了解はできんが、数の論理で押し切ればいいだろう」
「もちろん、結果的にはそうなるが、力ずくで事を運びたくないから、こうして話しているんだ。俺も、再就職先を心掛けてみる」
事ここに至っても、恭平は友人としての源田の変貌の理由が納得いかず、目の前の現実が信じられないで、夜も眠れぬほど悶々と思い悩んでいた。
その頃、恭平は広島の食文化の向上を願って、ホテルや食品スーパー、製パンメーカー、調味料メーカーなど、食に携わる広島の代表的な企業に呼びかけ、意見交換の場を設けて活動していた。
「広島から食の革命を起こそう!(Foods Innovation from Hiroshima)」との趣旨で設立され、「FIHの会」と名付けられた会は、月に1回程度集まって意見交換していた。
この「FIHの会」の活動に源田は強い関心を示し、積極的に関与したがっていた。株主総会を1カ月後に控え、恭平は源田に声を掛けた。
「再就職先は、どこか決まりそうか?」
「…」
「仲代達也に似た…」と自称する大きな眼を見開き、源田は恭平を睨みつけ、無言だった。
「FIHの会について、どう思っている?」
「意義のある活動だ。ずっと携わって、広島の食文化の発展に貢献したいと思っている」
「それなら、株主総会での退任後も、俺の代行者として事務方を務めてみるか。上手く機能して、本格的な組織を結成できれば、事務局長的ポジションを獲得すればいい。公私混同と言われるかも知れんが、半年程度なら生活の面倒はみるよ」
「嬉しい提案だが、保険とかはどうなるんだ?」
「無ければ困るだろうから、何とかしよう。対外的なこともあるから、暫くは机も名刺も我が社のモノをつかえばいい」
「そうしてくれれば有り難い。お前は、どれ位の期間で組織化できると思う?」
「それは、源田の手腕次第だ」