トコトン迷惑を被りながらも、未だ二人の間に友情は存在すると信じていたい恭平は、法的な手続きなど深く考えもせず、取締役退任後の生活支援を総務に命じた。
また、「FIHの会」のメンバーをはじめ、地元の経営者に積極的に源田を紹介した。
そこには、あわよくば源田の経歴や能力が評価され、再就職の糸口にでもなれば…との下心があった。
株主総会の開催された翌週、定例の月次社員会議の席で、退任した源田は恭平の補佐として個人的に社外プロジェクトを手伝ってもらう旨を報告した。
「会社を辞めた源田さんが、何故、仕事もしないで喫煙室で煙草ばかり喫っているんだ…」
その後も社内外の多くの人々からの非難は留まるところが無かった。
さらには、デザート工場竣工の直前、工場長に抜擢した河本敦史に対し、「このままでは当社は、3年後には会社更生法の適用を受ける」との発言をしたとの報告を受けるに至って、恭平の堪忍袋の緒は切れた。
「友情による支援を受けておきながら『会社更生法の適用』などと、よくもヌケヌケと言えたものだな。今後一切、会社としての援助は中止する」
「確かに、そのような話はしたが、それは話の流れの中での一節であって、お前が腹を立てるような意図は全くなかった。完全な誤解だ」
「勝手を言うな。日頃、他人の言葉尻を捉えて、執拗な攻撃を加えているのは、お前じゃないか。誤解だと言い訳するくらいなら、最初から言うな。今年いっぱいで支援は打ち切るが、俺はどうしょうもないお人好しの阿呆だから、最期の友情の証として、源田が個人的に『FIHの会』に参加できるチャンスを提供してやろう」
「どう言う意味だ…」
「お前は独立し、例えば『源田食文化研究所』みたいなコンサルタント会社を設立しろ。そして、『FIHの会』の事務局の委嘱を受けろ。そうすれば当社が20万円、他の6社から5万円を頂戴すれば、月額50万円になる。将来メンバーを増やし、貢献度が高まれば増収も期待できるはずだ」
「成程、それはいい案だ。ぜひ、実現してくれ」
「馬鹿を言うな。実現させるのは、お前だ。俺も誠心誠意6社の代表に頼んでみる。しかし、当然ながら別法人だから、成立は難しいぞ」
「上手くいかなかったら、どうする…」
「それ以外の手立ては、俺には考えられん」
「じゃあ、おれの生活はどうなるんだ!」