柳瀬 僕はいま東京に住んでいますけど、この30年間、三浦市の「小網代の森」というところに通って慶応大学の先生(慶應義塾大学名誉教授の岸由二氏)と一緒に緑を守る保全活動をしています。三浦は東京から電車ですぐだし、場合によったら通える距離なのに、まったく空気感が違う。横須賀でもそれを感じます。この違いは何なんでしょう。
横山 なんですかね。うまく説明できないんですけど、ロサンゼルスとか香港とか韓国とかに行っても、空気の粒が違う感じがしますよね。何かが立ち上がってくるというか、自分の中にエフェクトがかかってそう感じられるのかもしれないんですけど。
でも、行く先々で、その土地についてまったく知識がなくてもそう感じられるということは、その土地の何か霊的な存在のせいなのかもしれませんね。スピリチュアルな存在というんでしょうか。それを特に横須賀では感じます。不意にぞっとしたりすると、横にお地蔵様がいたり(笑)。そういうぎょっとする感じになるのは、横須賀とか三浦って多いんですよ。
柳瀬 古い地層や、地霊がひょこっと顔を出す。
横山 何か気配を感じるんです。一方、東京だと、夜がない感じで常に明るい。真夜中にも太陽があるような感じで。
柳瀬 「暗がり」がない感じですよね。
横山 横須賀は、やっぱり闇があって、ひんやりした空気を感じることがあるんですね。特に16号からちょっと奥に入ると、何か得体の知れない空気が漂っていたり。
中学生のとき、当時住んでいた戸塚から横須賀のどぶ板通りまで自転車で16号を走っていくと、トンネルが怖かったことをよく覚えています。田浦のあたりのトンネルがものすごく怖くて。
トンネルとトンネルの間には、上をゼロ戦が飛んでてもおかしくないような、まるでタイムスリップしたかのような景色が広がってました。ところどころに防空壕もあって。あのあたりの防空壕って戦時中とか戦後間もないころのままだったんですよ。そのままほったらかしになっているような状態で。そういうひんやりした空気を感じながら、横須賀を自転車で走っていました。
やっぱり横須賀って何かがあるんですね。ちょっと怖くて、でもセクシーでもある。最近は慣れてきたせいもあるのか、街が開発されて“消毒”されたのか、前ほどじゃなくなったんですけど。でも、やっぱり今でもちょっとあります。
柳瀬 『NOW』に収録された「ヨコスカ慕情」もそうですし、「タイガー&ドラゴン」もそうですけど、横山さんが横須賀を歌うときはどこか哀しみが入りますよね。
横山 そうですね。横須賀の、ちょっと哀しい、でも何かこうぐっとくる感じ。最初にそれをはっきりと感じたのは百恵ちゃん(山口百恵)なんですけどね。百恵ちゃんの存在自体が横須賀というか、表情とか歌声とかが全部横須賀っぽい。阿木燿子さんの歌詞とか宇崎竜童さんのメロディーも、坂道の多い横須賀の地形、傾斜感をすごく表していたと思います。
柳瀬 そうですよね。「ヨコスカ慕情」に出てくる病院も「海を見下ろす丘」の上ですね。「ヨコスカ慕情」を最初に聴いたとき、僕も山口百恵さんをちょっと思い出しました。
横山 横須賀は陸なんだけど地の果てというか、何か島のような感じがあるんですよ。沖縄と同じ空気感があったりして。両方とも基地の街ということもあると思うんですが、やはり何か特別な、横浜にはない切ない感じ、はかない感じとか、濃い空気感とかがある。磁場みたいなのがものすごくビリビリくる町だなというのは昔から感じていました。それを形にして擬人化した存在が百恵ちゃんなんですよね。変転して人間として出てきたのが百恵ちゃんかな、という気がするんです。