金委員長に取り込まれる文政権

 金正恩委員長は、軍事パレードの演説で「われわれに対して軍事力を行使しようとする勢力には、『最も強い攻撃的力で懲らしめる』」と強調した。その一方で韓国に対しては「愛する南の同胞が(新型コロナウイルスの)保健危機を克服し、固く手を握り合うことを願う」と融和的なメッセージを送った。

 同じ演説の中で、金委員長は北朝鮮が制裁、新型コロナ、洪水で困難な状況にあることを認め、国民の忍耐と努力への感謝を述べている。本音では韓国に救いを求めているのだ。文在寅政権のことだから、この言葉から、北朝鮮に手を差し伸べる可能性を改めて模索しはじめているかもしれない。

 筆者は、北朝鮮の市民が本当に困っている時に人道援助をすることを否定するものではない。しかし、金正恩氏が保有する資金を核ミサイル開発に回す状況を放置したまま、北朝鮮を救援することには断固反対である。それは朝鮮半島に平和をもたらすことには決してならない。

 現在の文政権が求めているのは、「朝鮮半島が平和になった」と国民に思わせることであり、それは瞬間的には文政権支持の向上につながるだろう。

 しかし、文政権の北朝鮮融和政策に対する疑念は国民の間にすでに浸透しており、政権批判の要因にもなっている。というのも北への融和政策の将来的な帰結は、北朝鮮から要求の一層の高まりになることが容易に予想できるからだ。さらに北の核ミサイル開発が完成すれば、韓国はこれまでの経済成長の成果を北朝鮮に搾り取られることになるのが目に見えている。だから韓国国民は、文政権のむやみな北朝鮮融和策に懐疑的な目を向けているのだ。

 支持率が低下し、強権的な政治も行き詰まりを見せるようになれば、文政権は一縷の望みをかけて、思い切った北朝鮮融和策に乗り出す可能性がある。そうなれば、韓国の将来に重大な禍根を残すものになるのではないだろうか。同時にそれは、東アジアの安全保障環境も危機に晒すことにもなる。日本としても静観してはいられなくなる。