総選挙の公正さまで疑われる始末

 そんな文政権も、一時は支持率低下に悩んでいた。そこに降って湧いたのが新型コロナの蔓延だった。韓国でも急速に感染が広がった時期があったが、その後は大規模なPCR検査の実施などにより抑え込みに成功。そこが世論から評価され、今年4月の総選挙で圧勝し、支持基盤を強化した。

 しかし最近になり、この選挙は果たして公正に行われたのかと疑問を呈される事態となっている。

 4月の総選挙で初当選した元KBSアナウンサーで青瓦台の報道官だった高ミンジョン議員(共に民主党)議員は、違法な選挙運動をしていたとして、未来党統合(現国民の力)から告発されていた。裁判所の判断によっては議員職をはく奪されかねない重大容疑だったが、今月に入り、ソウル東部地検は「嫌疑なし」とし、その理由も明かさなかった。

 選挙期間中に高氏は、自身の選挙公報物に、住民自治委員が高候補を支持するとの虚偽の支持発言を載せ、8万1834世帯に配布したとして告発されていた。現行法では住民自治委員は特定候補を支持できないことになっており、当該委員も「そのような発言を行ったことはない」と証言している。

元KBSアナウンサーで青瓦台報道官という経歴を持つ高ミン廷議員。写真は昨年12月5日、青瓦台報道官時代のもの(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

 物証や証言から判断すれば、「完全にアウト」とされておかしくない状況なのに、秋長官の下の検察が政権与党に有利な決定を行い、その理由も明かさないのだから、納得がいかない韓国国民も多い。

 また、現政権は選挙管理委員会の人事にこだわり続けているという。これまで文政権は親文派を主要ポストにつけることで、支配力を強化してきた。政権側が選管を支配されていて公正な選挙が実施できるのだろうか。

 しかし、韓国においてこのような事実を報じるのは筆者が知る限り、「朝鮮日報」くらいである。「朝鮮日報」を購読しているのは文在寅政権に批判的な保守層の人々である。それ以外の言論機関はひたすら政権寄りの報道に終始している現実を見れば、文政権の「支持率40%台半ば」という数字は、恣意的に作られた数字と言えよう。

「対北政策で突破口」は無謀

 文政権の支持率をこれまで支えてきたのは新型コロナに対する取り組みであった。しかし、それ以外の部分では文政権の政策は失敗の連続だった。そうした中、文政権が支持率浮揚の頼みの綱とするのは、対北朝鮮で関係改善の突破口を開いていくことしかないだろう。

 周知のことと思うが、もともと文在寅氏は北朝鮮との関係を改善するため、北朝鮮に対しては極度に融和的な姿勢に終始してきた。

 最近では、米国との調整もなしに、国連総会の一般討論演説で突如「終戦宣言」を口にした。しかも、この時の文在寅氏の提案では、北朝鮮の非核化が前提とはなっていない。北朝鮮との幻の平和を実現することで国民に淡い期待を与えようとしているだけなのだ。