(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)
文在寅大統領の支持率が下落している。危険水域にはまだ少し余裕があるが、下落傾向が支持基盤にまで及んでいることが政権内に懸念を呼んでいる。
昨年曺国(チョ・グク)法務部長官(当時)の不正が広がった時には、大規模な抗議活動がソウル市内で繰り広げられた。今回もまた、閣僚が絡むような大規模不正が発覚しており、政権をレームダックにしかねない状況になっているのだが、この窮地を文政権は強硬手段で乗り切ろうとしている。
しかし、文政権への支持を取り戻すきっかけは見当たらない。これまでは新型コロナの封じ込めで支持が上昇してきたが、それも限界にきている。
打開策は「日本叩き」か「北朝鮮関係改善」
支持率引き上げが期待できる事案は2つある。1つは、日韓関係で日本から譲歩を引き出すことだ。日本に打ち勝つことは国民の評価を得やすい。
その意味では、世界貿易機関(WTO)の事務局長選で、韓国政府が全力で推す兪明希(ユ・ミョンヒ)・産業通商資源部通商交渉本部長が勝利できるかどうかは、大きな分岐点になる。日本が韓国への半導体材料の輸出管理の厳格化を決めた件について、韓国はWTOに提訴している。事務局長が韓国出身の兪氏になれば、韓国側に有利に展開する可能性もある。ただ、それが文政権への支持につながるかどうかは不透明だ。事務局長選で兪氏が勝利すれば、一時的には支持率上昇につながろうが、それとてそう長続きはしないだろう。
もう1つ、文政権の支持率上昇に最も効果がありそうなのは北朝鮮との関係促進だ。北朝鮮との関係が前進すれば、平和の幻想が広がることであろう。
しかし、北朝鮮は本気で非核化をする意思はなく、平和はあくまでも幻想である。無謀な対北朝鮮政策は文政権批判にも繋がりかねず、北との関係促進は文政権にとって諸刃の剣でもある。