隕石の速度は数十km/sで、これは典型的な銃弾の約100倍です。この速度で物体が衝突すると、砂地がちょっとくぼんだり、あたりが小麦粉だらけになるだけではすみません。運動エネルギーが熱に変わり、飛翔体も標的も太陽表面以上の高温に熱せられ、閃光を放って蒸発します。周囲に大気があれば衝撃波が広がります。これは爆発と呼んでいいでしょう。飛翔体の材質が鉄だろうと卵の黄身であろうと、(質量が同じなら)ほとんど差は生じません。

 いうまでもありませんが、隕石の質量が大きければ、破壊はさらに大規模になります。

 富士山ほどの隕石が衝突してコペルニクス・クレーターをうがった時、その大爆発は地球からもまばゆく見えたことでしょう。それはいったい、いつのできごとでしょうか。

クレーターは宇宙からの爆撃の記録

 月面をおおう大小無数のクレーターは、45億年にわたる宇宙からの爆撃の記録です。この記録をうまく読み取れば、過去の太陽系の荒々しい活動や事件が浮かび上がります。

 今回の発表は、月面に刻まれた59個の大型クレーターの年齢を測定したというものです。小さなクレーターの数と大きさを数えると、大きなクレーターの年代が分かるのです。

 月周回衛星「かぐや」の地形カメラで撮像した高解像度の月面写真を用いて、対象となる大型クレーターを調べます。その周囲には、直径100 m〜1 kmの小クレーターがたくさん見つかります。中心の大型クレーターがドカンとできて、周辺を更地にした後、長年にわたって小さな隕石がポツポツ落ちて作ったものです。その数を数えると、中心の大型クレーターができてからどれほど経ったのか分かるというわけです。

 そうして59個の大型クレーターを年代順に並べてみると、コペルニクス・クレーターを含む8個が約8億年前に集中して作られたことが判明しました。

 約8億年前、月面に隕石がどかどか降ってきた事件があったのです。その総量は約2兆トン、富士山2個分と見積もられます(富士山を1兆トンとして計算)。

 その時、太陽系で一体何があったのでしょうか。