また日本以上のコロナ禍に遭遇しているアメリカでは、さまざまな会合が自粛されている。本来ならば、副大統領候補それぞれに直接面談し、じっくりと主要政策をすり合わせたり、残りの大統領選の戦い方について意見交換したりしながら最終的な人選をするのだが、今回はコロナの影響でそれができなかった。だから、バイデンはこれまでの自分の知見と経験則の中から「ランニングメイト」(副大統領候補)を選ばなくてはならない。そうなってくると、かつてオバマ政権で同じ釜の飯を食った仲間であるスーザン・ライスを選ぶ可能性ががぜん高くなってくるのだ。

日本にとって手ごわい相手

 このライスが、日本にとっては手ごわい相手になる可能性がある。かつてライスは中国には宥和的で、日本には厳しい対応をしてきたからだ。日本の外務省でも、彼女の副大統領就任にはかなり警戒している。

 では、バイデン大統領―ライス副大統領のコンビが現実のものとなったら、アメリカの外交・安全保障政策はどう変わるのか。

 まず対中政策を見てみたい。現在、アメリカの議会は共和党・民主党を問わず、中国には厳しい見方をしている。米中関係は中長期的に見れば、ハイテク分野で覇権を争い、宇宙空間での軍拡競争も演じる関係だ。本質的に米中が相容れることはもうない。もちろんこれは中長期的なスパンで見た場合のことで、目先の数年の関係ならば、互いに利を分け合う選択をとることもあり得る。

 トランプ大統領にしても、今年1月には中国との間で、米中貿易通商合意の「第一段階」に合意していた。これは中国の品物にかけるとしていた高い関税を撤回する代わりに、中国にアメリカ産の農産品やサービスなど2年間で2000億ドル相当を買ってもらう契約だ。トランプの目的は、自身の支持基盤であるウィスコンシン州やオハイオ州、ミシガン州などの農場経営者らの歓心を買うことだった。また当時はトランプ再選の可能性が高いと見られていたので、習近平国家主席も内心は嫌々ながらこの合意を呑んだ。

 ところがその後、大統領選での劣勢が明らかになってくると、トランプは明らかに「対中強硬政策」に思いきり舵を切った。トランプ政権の対中政策の立案・企画を事実上仕切っているとされるポッティンジャー大統領副補佐官(国家安全保障担当)、レイFBI長官、バー司法長官、オブライエン国家安全保障担当大統領補佐官などが、次々と中国批判の講演を行っているのはそのためだ。極めつけは、7月23日のポンペオ国務長官の中国批判演説だ。習近平を「失敗した全体主義イデオロギーの信奉者」と名指しで批判し、共産党による支配そのものを否定する内容だった。習近平をフランケンシュタインの如く形容し、中国の政治体制そのものを否定するこの内容は、従前の中国批判とは明らかに一線を画するものだ。これはトランプの焦りを表しているとも言えるが、もはやトランプが中国に宥和的な態度を見せることはない。

 常識人のバイデンの場合はここまで中国への敵対姿勢をとることはないが、かといって米中対立の融和に乗り出すこともない。第一、大統領に就任しても、当面はトランプが破壊したヨーロッパ諸国やカナダやメキシコといった隣国との関係修復に専念せざるを得ないはずだ。

 では副大統領ライスはどう動くだろうか。前述のようにライスの外交・安全保障政策の軸は、「アメリカの国益のためには同盟国・日本と仲良くするより、中国と良好な関係を築いて、二大国同士のウィン・ウィンの体制を構築するべき」というものだ。

 労働組合を支持基盤に持つ民主党政権としては、労働者が歓迎するような貿易通商問題でアメリカが利益を確保できる体制を構築したいところだ。だからといって中国とすぐさま良好な関係を築くということは、現在の両国関係からして不可能なので、対中貿易が急激に増えることはない。そうなると、一番の狙い目は日本ということになる。関税などで日本からの輸入を押さえ、日本にはアメリカ産の農作物やアメリカ製品の購入を強硬に迫るようになるはずだ。クリントン政権を思い出せばわかる。日本を「政官業癒着のトライアングル」と批判した日米貿易戦争で日本が最も苦しめられたのは、あの時代だったのだから。