新型コロナ感染症の差別に関して言えば、新型コロナウイルスに対する恐怖が一因になっているのだと思います。根っこに恐怖があるからこそ――

『新型コロナ感染症は怖い→感染したくない→感染した人・怪しそうな人を遠ざけたい、あるいは自分と異なる属性の人を叩きたい』

という発想になり、差別が生まれる面があるのではないでしょうか。問題の一つは、その恐怖が正当かどうかです。正しい知識に基づかず、「うつったらヤダ」と感情的に浮き足立って怖れてはいないでしょうか?

・感染力は発症の数日前から増大する(無症状の感染者から感染することもあるので、つねに注意が必要)。

・病気が治れば感染力はないと考えられている(注)。

注:(1)発症日から10日間経過し、かつ、症状軽快後72時間経過した場合。または、(2)症状軽快後24時間経過した後、24時間以上の間隔をあけて2回のPCR検査で陰性の場合。

・三密回避、ソーシャルディスタンス、こまめな手洗い、マスク着用(口元を触らない効果がある)を徹底すれば、感染リスクは大幅に減らせる。

 以上はいまや広く知られた基本的な知識です。これらの正しい知識に基づいて、理性的に判断・行動できるなら、感情的な恐怖はかなり抑えられるはずです。

 理性に加えてもう一つ大切なのは想像力。「もし、自分が差別される立場に置かれたら・・・」と想像してみることです。もし、自分が「感染源」と言われたら、「うちの部から最初に感染者が出て恥ずかしい」と言われたら、「とりあえず有給休暇を全部使って休んで」と言われたら・・・。冷静かつ本気で想像してみてください。

 たとえば、厳重な感染対策を行っている病院の医師であれば、その家族が感染する確率が非常に低いことは理解できるはずです。また、もし自分が医師の子供で「学校に来るな」と言われたらどう感じるか本気で想像してみましょう。

 恐怖や差別など、人間の根源的な弱い感情を完全に消し去ることは不可能です。しかし、抑えることはできる。そのために今われわれに求められているのは、科学的かつ理性的に判断・行動し、立場を越えて想像力を働かせることではないでしょうか。

(7月23日口述 構成・文/鍋田吉郎)

※ここに記す内容は所属病院・学会と離れ、讃井教授個人の見解であることをご承知おきください(ヒューモニー編集部)。

◎讃井 將満(さぬい・まさみつ)
自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長・ 麻酔科科長・集中治療部部長
集中治療専門医、麻酔科指導医。1993年旭川医科大学卒業。麻生飯塚病院で初期研修の後、マイアミ大学麻酔科レジデント・フェローを経て、2013年自治医科大学附属さいたま医療センター集中治療部教授。2017年より現職。臨床専門分野はARDS(急性呼吸促迫症候群)、人工呼吸。研究テーマはtele-ICU(遠隔ICU)、せん妄、急性期における睡眠など。関連学会で数多くの要職を務め、海外にも様々なチャンネルを持つ。

◎鍋田 吉郎(なべた・よしお)
ライター・漫画原作者。1987年東京大学法学部卒。日本債券信用銀行入行。退行後、フリーランス・ライターとして雑誌への寄稿、単行本の執筆・構成編集、漫画原作に携わる。取材・執筆分野は、政治、経済、ビジネス、法律、社会問題からアウトドア、芸能、スポーツ、文化まで広範囲にわたる。地方創生のアドバイザー、奨学金財団の選考委員も務める。主な著書・漫画原作は『稲盛和夫「仕事は楽しく」』(小学館)、『コンデ・コマ』(小学館ヤングサンデー全17巻)、『現在官僚系もふ』(小学館ビックコミックスピリッツ全8巻)、『学習まんが 日本の歴史』(集英社)など。

◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。