2018年8月、国家警察の記念式典に参加したドゥテルテ大統領。左はドゥテルテ氏肝いりの「麻薬撲滅戦争」を指揮していたオスカル・アルバヤルデ国家警察長官(当時)。実はこのオスカル氏も、長官退任後の今年1月、汚職警官を庇った容疑などにより起訴された(写真:AP/アフロ)

(PanAsiaNews:大塚 智彦)

 フィリピンで今、ツイッターを中心に「#JusticeForFabel」(=ファベルに正義を)というハッシュタッグを付ける抗議運動が静かに拡散している。

 それはまるで女性へのセクシャルハラスメントへ抗議する「#MeToo」や、黒人への差別問題を批判する「#BlackLivesMatter」がそうだったように、「ファベル・ピネダ」という名前は、フィリピンの心ある人々や若者の間で急速に浸透し、公正、公平、そして正義を求める運動の合言葉のようになりつつある。

警察署からの帰りに銃殺された15歳の少女

「ファベル・ピネダ」はつい先日亡くなった、フィリピン人女性の名前だ。

 ファベルさんは7月2日、ルソン島北西部の南イロコス州カブガオ市で、親族のバイクの後部シートに乗って自宅に向かっていたところ、覆面をした正体不明の男性2人が乗ったバイクに追跡され、不意に銃撃を受けて死亡した。年齢は15歳だった。

 実はこの前日、15歳の少女ファベルさんは、警察官に性的暴行を受けていた。そこで一夜明けた事件当日、隣接の警察署に被害届を提出に出かけていた。襲撃されたのはその帰り道だった。警察署を出る前に無事に帰宅できるか不安になったファベルさんは、警察官に「自宅までの帰路、同行して守ってほしい」と懇願するも拒否されていた。その結果、思いもよらぬ銃撃を受け、わずか15年の短い生涯を終える結果となってしまった。

 この襲撃事件を捜査した警察は、ファベルさんを性的暴行した警察官が殺害にも関与したとの疑いを深め、2人の警察官の職務を解き、身柄を拘束して事実関係の調査に乗り出した。

 だが、「警察による警察官の捜査は信用できない」として、国家捜査局も捜査に乗り出すとともに、国家警察長官、大統領府、さらに国際連合児童基金(ユニセフ)までもが、真相解明と加害者に対する公正な法の裁きを強く求める事態に発展している。