日本は戦後、一貫して経常黒字が続いてきたので、経常黒字を「善」、経常赤字を「悪」と捉える傾向があるが、経済学的に見た場合、経常収支が黒字なのか赤字なのかは、成長率には直接関係しない。ただ、経常収支と産業構造は密接に関係しており、ここにミスマッチが生じると経済活動に混乱が生じる。

 輸出主導型経済の場合には、基本的に経常黒字になるのが標準であり、もし経常収支に変化が生じた場合には、それは産業構造の転換が必要であることを示している。

 日本は高齢化が進んでおり、貯蓄率の低下が予想されるため、財政赤字が解消されない限り、経常収支の赤字を誘発しやすい(貯蓄投資バランス論)。

 輸出主導型の産業構造が維持されたまま、経常収支が変化すると、大きな混乱が発生するので、そうした事態が起こる前に、経常収支の動向に合わせて産業構造のシフトを進める必要がある。その意味では、経常収支の悪化は警戒すべき事態といってよいだろう。

輸出主導型経済は一種のトリクルダウン

 輸出主導型経済というのは、製造業の輸出を起点に、国内の設備投資を増やし、設備投資支出による国内所得の拡大を通じて消費を増やすメカニズムである。つまり海外の富を起点に、製造業からサービス業へ富が落ちていくという点で、ある種のトリクルダウン経済(富めるところから、そうでないところに富がしたたり落ちることで全体が潤う仕組み)といってよい。

 だが経常収支が赤字になるということは、需要が強く、消費主導で経済が回ることを意味している。消費主導型経済の場合、日本人自身がお金を使うことで個人消費を拡大するモデルなので、トリクルダウン経済にはなりにくい。また世界経済の影響を受けにくくなるので、コロナ危機のような事態が発生した場合でも、今ほど影響を受けずに済む。

 近視眼的には輸出の減少や経常収支の悪化はあまり望ましいことではないが、消費主導型経済への転換点と捉えるのであれば、必ずしも悲観する事態ではない。企業の国際競争力や高齢化の進展、財政赤字の推移などの動きを総合的に捉え、どのような産業構造と国際収支が最適なのか議論することが重要だろう。