やり場のない不安や怒りが魔女狩りを生む

 加えて、SNS上にはコロナをめぐる情報が無数に飛び交っている。中には、怪しげな情報やまったく根拠のない情報もある。新型コロナウイルスは熱に弱く、26度を超えると死滅するいう情報もあった。では、どうして体温36度の人体で増殖するのか、と考えればすぐにその真偽はわかると思うのだが、こうした情報がまことしやかに伝達される。また、ヨーロッパでは、中国憎しの思いからか、携帯電話の5Gの電波でウイルスが感染するという情報も拡散したそうだ。

 見えない脅威が迫ってくるとき、不安な心理状態に陥った人たちは藁にもすがる思いで、どうすれば助かるか、せめて家族や子供たちだけでも感染から免れる方法はないかを必死になって知ろうとする。

 こういう大衆心理が発生し、今回と同様に専門家の意見に耳を傾け、そして専門家が信頼を失い、その権威が失墜するという経験を、実はわずか10年ほど前にしている。東日本大震災における福島第一原発の事故だ。それまでの安全神話が崩れ、それからはさまざまな分野で「ゼロ・リスク」が求められるようになった。

 このような心理状態でのやり場のない不安と憤りは、しばしば誰かを悪者にし、事態の責任を彼らのせいにして糾弾し、そして心の安らぎを得ようとする。昔からあった「魔女狩り」を生む集団心理だ。

 そのような状態に陥ったとき、不安に駆られた人々は、信頼できる情報よりも安心させてくれる情報を求めがちだ。客観的な情報をベースに現状を分析し、可能性の中で最も確実な方法を探すのではなく、それまでの知識から安心できる状態を想像し、それに合致する情報を探す。

 そして、それが見つかったら、思考は停止し、情報の探索も止めてしまう。さらに、それで安心した人の中には、たどり着いた情報を正しいと信じ、社会に広く知らせようとしてSNSで発信し、それでますます社会に対してよいことをしたと思い込み、心の安らぎを得ようとする者もいる。それが誤報の伝言ゲームを作っていくことはいうまでもない。