「レム睡眠」=「浅い睡眠」の誤解
さて、入眠直後に出てくるのはノンレム睡眠で、徐々に睡眠の深度が増していきます。その後は逆に徐々に浅くなり、レム睡眠へと移行します。
このノンレム睡眠とレム睡眠のセットがおよそ90~120分周期で数回繰り返されます。そして徐々にノンレム睡眠の深度が浅くなるとともにレム睡眠の比率が増えて、最終的に覚醒します。
みなさんも、この過程を図示したこのようなグラフをどこかで見たことがあるのではないでしょうか。
しかし、実はこのグラフは多少ミスリーディングで、現代の睡眠医学の観点からすると修正すべき点がいくつかあります。
まず、ノンレム睡眠の深度は以前から4段階あると言われており、厚生労働省の健康情報サイト「e-ヘルスネット」でもそのように説明されています。しかし、もともとステージ3と4は本質的に区別がしがたく、米国ではすでに3段階までに変更されています(6)。
また、レム睡眠はノンレム睡眠とくらべて「浅い」睡眠と考えられており、グラフからもそのようにしか読み取れませんが、実はそうではありません。
睡眠の「浅い」「深い」をどう定義するかでさえ、実は難しいのですが、一つの尺度として「周波数」があります。
ノンレム睡眠では、睡眠が深くなっていくほど低周波になっていきます(もしくは低周波の睡眠を深い睡眠と呼んでいます)。
一方レム睡眠では、いろんな周波数が混じった脳波になります。つまり、浅いも深いもない、ということです。
以上のように、レム睡眠とノンレム睡眠は本質的にまったく違うので、前掲したよく知られているグラフは、このように書き換えた方が誤解が少ないでしょう。
以上、少し専門的な解説になってしまいましたが、私が本稿で一番お伝えしたかったことは、睡眠や脳の機能についてはまだまだ未解明の部分も多く、今まで当たり前とされてきたことが日々塗り替えられる可能性も大いにある、ということです。
一番問題だと思うのは、今では否定されている古い情報がアップデートされずに残っていて、それを日常生活に落とし込めずに四苦八苦したり、振り回されてしまったりするという事態でしょう。
たとえば以前は「レム睡眠は浅い睡眠だから、その最中に起きれば一番目覚めが良い。つまり90分の倍数で起きる時間を決めるべきだ」という意見も散見されましたが、今やそんなことに心を砕く必要はまったくありません。
大切なことは、メカニズムはあくまで情報として目配りしつつも、自分の心と体をしっかりとモニターすること。そしていかにして眠れば、快適な睡眠が得られるのかを、日々の経験を蓄積させることによって自分自身の手で作り上げていく、ということではないでしょうか。
【参考文献】
(1) Spira AP et al. Self-reported sleep and β-amyloid deposition in community-dwelling older adults. JAMA Neurol. 2013;70:1537-43.
(2) Aly, M. & Moscovitch, M. 2010. The effects of sleep on episodic memory in older and younger adults. Memory 18 : 327-334.
(3) Lavie P. Electroencephalogr Clin Neurophysiol. 1986 May;63(5):414-25. Ultrashort sleep-waking schedule. III. 'Gates' and 'forbidden zones' for sleep.
(4) Karni, A et al. Dependence on REM sleep of overnight improvement of a perceptual skill. Science 1994;265:679-682.
(5) Foulkes D. The Psychology of Sleep. New York, NY: Scribner, 1966.
(6) Schulz, Hartmut (2008). "Rethinking sleep analysis. Comment on the AASM Manual for the Scoring of Sleep and Associated Events". J Clin Sleep Med. 4 (2): 99–103.