(舛添 要一:国際政治学者)
大晦日には、日産のカルロス・ゴーン元会長がレバノンに逃亡するという大ニュースが入ってきて、世界中を驚かせた。どのようにして出国できたのかなど、まだ不明な点が多いが、あらためて日本の司法制度が内外で問題にされるであろう。日本もフランスも蚊帳の外に置かれた状況だったが、ゴーン被告は既に過去の人であり、今回の逃走劇が日産とルノーの今後の提携関係に影響を及ぼすことはないであろう。
レバノンという小国の出身で、パリでエリート校に進み、世界的企業のトップ経営者となったゴーンは、レバノン、フランス、ブラジルの国籍を持ち、蓄積した富を使って世界中にコネクションの網の目を張り巡らせた。そして、日本政府の監視を潜り抜けてまんまと逃走に成功した。日本政府、とりわけ司法当局の非国際性、情報収集能力の欠如を白日の下にさらした醜態である。
しかし、そのような情報小国であっても、激動する世界の中で生き残っていかねばならない。2020年の初めに当たり、世界情勢を展望してみると、キーワードは格差である。
些細なきっかけで爆発する民衆の不満
世界の不安定、民衆の不満、ポピュリズムの背景には格差の拡大がある。
ゴーンの祖国レバノンでは、スマホの無料アプリ、ワッツアップへの課税案をきっかけに、経済運営に不満を持つ市民が10月17日にはじめた反政府デモが2週間も続き、遂に10月末にハリリ首相が辞任した。電話網など公共インフラが整備されていない状況では、ワッツアップに頼らざるをえず、政府の無策に市民の不満が高まったのである。しかし、政治家と一部の富裕層が結託することによって、貧富の格差が拡大しており、それが反政府デモの背景にある。