12月26日、前釜山副市長の収賄事件に絡み、自身に向けて出された逮捕状請求の審査のためにソウル東部裁判所に出向いた曺国前法相(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 27日未明、ソウル東部地裁は、曺国(チョ・グク)前法務部長官の逮捕状請求を棄却した。逮捕状は文在寅大統領に近い柳在洙(ユ・ジェス)前釜山市経済副市長に対する監査打ち切り疑惑に絡み、検察が求めていたものである。

柳在洙氏の背後には青瓦台が

 柳氏は、金融委員会の金融政策局長だった当時、複数の金融業者から4950万ウォン(約470万円)を受け取り、便宜を図った疑いがもたれ、17年に大統領府の監査を受けたが、当時民情首席であった曺氏が捜査の打ち切りを指示したと言われる。柳氏は、一時辞職し、身を隠すも、その後国会専門委員や釜山副市長などに栄転した。金慶洙(キム・ギョンス)前慶尚南道知事など文大統領の側近グループが柳氏を庇い、栄転させたとも言われている。ただ、その柳氏は10月末、収賄容疑で逮捕されている。

不思議な判断の背後に政治的考慮?

 検察は、曺氏が民情首席秘書官であった2017年、柳氏事件に関し特別監察を行いながら、明確な理由なしに監査を打ち切ったことは職権乱用に当たるとして逮捕状を請求していた。監査打ち切りを犯罪と見る検察に対し、曺氏側は監査中止を決めたことは認めながらも、これに対する「法的責任はない」と争い、26日、地裁に出頭した際も、「検察の令状申請内容に同意しない」との立場を示していた。

 これに対し地裁は、「罪質は良くない」とも指摘しながら、「容疑事実は認められるが、逃亡や証拠隠滅の恐れがない」と判断したと韓国メディアは報じている。この件を担当した判事は文政権に近いと言われているが、逮捕状請求の状況から、請求は認められるだろうとの事前の予測を覆した判断であった。曺氏への捜査が今後青瓦台に及ぶことが予想される中で、政治的な考慮が働いたのかも知れない。不思議な判断である。

 もともと曺氏と柳氏の関係はそれほど深いものではない。柳在洙氏は、文大統領の盟友である故元盧武鉉大統領の日程や儀典を担当する秘書官を務め、当時民情首席秘書官であった文在寅氏を「兄貴」とも呼ぶ近い関係にあった人物といわれる。このため、曺氏に監査打ち切りを求めたのが、文大統領本人かその周辺ではないかとの疑惑も取りざたされている。