——人材を受け入れる企業の反応はいかがですか。

中村 これはほぼ満足していただいています。よく言われるのは「地元では絶対採用できない人材だった」という感想です。福岡は地方都市の中では大きな街ですが、それでもやはり「支店産業」中心です。東京に本社がある会社の営業拠点やコールセンターなどが産業構造のかなりの部分を担っている。ということは、わりとオペレーティブな仕事に従事している人材が多いんです。

 では、地元の優秀な人材はどこにいるかというと、地元のインフラ系の企業や地方銀行、地元マスコミなどです。そういう企業の社員は、新卒でその会社に入ると、ある意味で「あがり」なんです。というのも、地元には同業他社がほとんどないので、転職はまずできません。地元の優良企業で順調にキャリアを積んでいって、その会社でキャリアを終えるのです。ですから、地元にいる優秀な人材は、その会社に固定され、流動化しない傾向が極めて強い。

 だから地方で一定水準以上のスペックの人材を採用しようとしても、地元からというのは難しい。そういった構造的な問題があるんです。

 それに先ほど述べたように、福岡には支店機能が多い。本社機能に含まれるファイナンスやアカウンティング、広報・IR、マーケティングや人事という仕事に従事している人材はやっぱり東京に集中しちゃっているんです。福岡で大きくなってきた会社などが「これからコーポレート機能を高めていこう」と考えた時に、それを担ってくれる人材が地元で採用できないんです。そういう意味でも、東京の企業のヘッドクォーターで働いていた人材に対するニーズは非常に高いんですよね 。

「移住」は「転職」以上の一大転機

——YOUTURNでは、福岡への転職・移住を希望される方に、「性格ナビ」という性格診断テストをしているそうですが、これはどういう意味があるんですか。

中村 東京で働いているビジネスパーソンが「いまのキャリアを変えたい」と思ったとき、どういう選択をするかと考えたら、例えば大手求人サイトやヘッドハンティングサイトに登録することだと思うんです。そして、その時の転職先も、東京の企業を想定していることがほとんどでしょう。地方への移住・転職って想定もされていないか、優先順位の低いところにしかない。

 そういう認識を変えてもらうにはどうしたらいいかと考えて、以前、心理学に基づいたアンケートをとりました。そこで分かったのは、東京で働くことにこだわっている人には自己実現の理想像と現状の自分の姿との間に大きなギャップを感じているということでした。逆に、「地方もあり」と思っている人は、自己一致感が高かった。

 これってどういうことなのか? 「絶対に東京で」と考えている人はおそらく、資本主義的な世界観の中で、ヒト・モノ・カネが一番集まっている東京で働くことにこそ価値があるし、最も成功する確率が高い、と思い込んでいるんじゃないかと思うんです。でも上には上がいますよね。年収や仕事の実績だって、上を見たらきりがない。そういう中で仕事をしているから、理想像と現在地のズレに悩んでいる。これはかなり息苦しい人生だと思います。

 そういう人が地方に移住・転職しても、経済的成功を自分のキャリアの物差しにしている限りはやはり満足できません。だけどそこで、社会的な帰属意識や貢献実感といったソフトの部分に視点を移せれば、その人の生き方やキャリアがトータルで満たされていくんじゃないかと思い至ったんです。

 だとしたら、東京で働いている人たちが、いま何に満たされ、何に満たされていないのかをちゃんと理解して、その人が地方に移住・転職して幸せになれるかどうかを見極めたうえで新しいキャリアを提案したいですし、そうしなければ意味がないと思いました。そこで「性格ナビ」を導入したんです。

——そういったものが本当に効果あるんですか。

中村 移住って、単なる都内での転職とは違って、人生の一大転機なんです。それだけに悩みや葛藤が付きまとうんです。

「東京で上り詰めたい」と思っていた人がさまざまな事情から地方移住・転職を決断したとします。それでも「周りから都落ちしたみたいに思われるのは嫌だ」という葛藤を拭い去れない場合が多い。「性格ナビ」はそういう面も浮き彫りにしてくれます。そういう苦しみを抱えている人に、われわれは「性格ナビ」の結果に基づいて、「あなたの人生や地方で働くということを、こういうイメージでとらえてみたらどうですか。そうしたらもっと楽に生きられるかも知れませんよ」と伝えることができます。

——単なる仕事紹介だけじゃなく、個々人の性格に合わせて、その人の人生のプロデュースもするということですか。

中村 そうです。私たちは、東京で福岡への移住に興味を持たれている人を対象にイベントを定期的に開催しているんですが、先日、参加者の方からこんなメッセージをいただきました。

<本日は素敵なお話を聞かせていただきありがとうございました。私がなぜ東京を出たい気持ちになったのか、お話を聞いていて答えが見つかりました。東京に来てから、自分がこんなにダメな人なんだとか忍耐力がないとか、自己否定ばかりしていたんです。自分の中で、今を生きる、自己実現を求める人生を欲していたんだと気づきました>

 たぶん、キャリアとか仕事、スキルの話だけをしていたら、こういう気づきはないと思うんです。人生観とか本当の自己実現というのは、「キャリア」とか「転職」といった視野の狭い話ではとらえきれない。そうではなく、もっと広い視点で自分をとらえてみようという入り口に、こういう性格診断は役に立つのではないかと感じています。