世間を騒然とさせた小説『トヨトミの野望』(講談社)から3年――。この12月、その続編となる『トヨトミの逆襲』(小学館)が発売され、再び経済界、なかでも自動車産業界がざわつき始めている。

筆者は「覆面作家」

 一読すれば、誰もがトヨタ自動車をモデルにした作品と気づくのだが、そこに描かれたストーリーは、もはや「企業小説」の域を超えていると言っていい。フィクションの「形」を借りて、トヨタの内部を鋭くえぐった作品だからだ。「カイゼン」「カンバン」「ジャストインタイム」……これまで、世界に冠たる「ものづくり大国・日本」の象徴のひとつ、トヨタ生産方式を紹介するビジネス書などは巷間あふれているが、莫大な広告予算でメディアの生殺与奪の権を握る巨大企業だけに、トヨタ「奥」でいったいどんな人間模様が繰り広げられているのかについてまで踏み込んだ書き手はいなかった。

 本書のプロフィールによれば筆者は経済記者だが、本作では正体を隠し、「覆面作家」梶山三郎を名乗っている。

 その梶山氏の手による前作『トヨトミの野望』では、28年ぶりに豊田家以外から社長に抜擢された奥田碩氏がモデルの武田剛平と、豊田章一郎氏・章男氏父子を思わせる豊臣新太郎・統一の創業家の親子との確執をベースに、ハイブリッド車「プリウス」開発の舞台裏、リコール問題対応時の詳細など、トヨタが実際にくぐってきた出来事を膨大な情報を交えながら、臨場感あふれるドラマに仕立てられていた。作中で、剛腕社長・武田剛平は、トヨトミ自動車の経営を立て直し、アメリカ大統領やイギリスの首相を手玉に取って、あっというまに売上高27兆円、世界一の自動車企業に押し上げていく。ところが、豊臣家の所有と経営の分離を図る「持ち株構想」という名の“クーデター”が事前に発覚し、社長を追われてしまう。このストーリーも実話に基づく部分がかなり占められているという。