どうしても気になる登場人物のモデルたち

 梶山氏は、取材で得た分厚い情報をもとに本作も書いているのは間違いない。それだけにトヨタ自動車や、一次、二次、三次とすそ野の広い下請け企業群を形成する自動車業界の今を理解するうえで、これほど参考になる“資料”はなかなかお目にかかれないだろう。

 そこで、ネット検索の結果も踏まえ、「この登場人物のモデルはこの人」と思われる対照表を勝手に作成してみた。自動車業界を取材するジャーナリストによれば、ここに挙げなかった人物も、やはり実在のモデルがいるという。

『トヨトミの逆襲』登場人物のモデル(推定、敬称略)

豊臣統一:豊田章男(トヨタ社長)
豊臣太助(始祖):トヨタグループ始祖の豊田佐吉
豊臣勝一郎(トヨトミ初代社長):豊田喜一郎(トヨタ自動車創業者)
豊臣新太郎:豊田章一郎(豊田章男の実父でトヨタ名誉会長)
豊臣史郎:豊田英二(トヨタ元社長)
豊臣芳夫(トヨトミ元社長):豊田達郎(トヨタ元社長で豊田章一郎実弟)
豊臣博芳(尾張電子常務):豊田達也(デンソー元常務役員、豊田達郎長男)。デンソーセールス副社長に転じた後に同社も退社。その後の役職は不明
藤島保己(藤島ブレーキ社長):信元久隆(曙ブレーキ工業前社長)
笠原辰男(トヨトミ専務):上田達郎(トヨタ執行役員)
照市茂彦(トヨトミ副社長):寺師茂樹(トヨタ副社長)
向田邦久(トヨトミ専務):牟田弘文(トヨタ元専務、現日野自動車副社長)
林公平(尾張電子副会長→トヨトミ相談役→トヨトミ副社長):小林耕士(元デンソー副会長、現トヨタ副社長)
武田剛平(トヨトミ元社長):奥田碩(トヨタ元社長)
岸部慎介(内閣総理大臣):安倍晋三(内閣総理大臣)
宋正一(ワールドビジョン・グループ社長兼会長):孫正義(ソフトバンクグループ会長兼社長)
沢田宗太郎(沢田自動車創業者):本田宗一郎(本田技研工業=ホンダ創業者)
バーナード・トライブ(米大統領):ドナルド・トランプ(米大統領)
ジャッキー・ワン(アラジン・グループ創業者):ジャック・マー(アリババ創業者)
北岡良平(日商新聞元トヨトミ担当デスク、トヨトミに出向して豊臣統一の秘書):西岡貴司(日経新聞経済部次長、2019年10月1日付でトヨタの総務・人事本部付に)
内海加奈子(元レースクイーンでキャラクター・デザインの制作会社経営):奥野静香(元キャンペーンガール、キャラズ代表取締役。故人)

 梶山氏がモデルにしていると思われる人物を思い浮かべながら読むと、なおリアルで生々しい自動車産業のさまざまな現場が立ち上ってくる。

 ちなみに、その実名は教えてもらえなかったが、本作で陰の主人公ともいえる、三重県・伊賀の山里にある小さな会社を率いて奮闘する森敦志(森製作所社長)も「モデルが実在する」(加藤氏)のだそうだ。