「習得がたいへん困難な言語」
ここでは、英語と日本語との「言語的距離」(language distance)について考えてみます。
英語と親戚関係にある言語を母語にしているヨーロッパ人たちが英語を習得するのは容易なことでしょう。
学習者の母語と学習対象となる言語が似ている、すなわち言語間の距離が近ければ近いほど、習得にかかる時間は少なくてすむわけですが、日本語と英語はどれぐらい離れているのでしょうか。
アメリカ国務省(日本の外務省にあたる)には、外交官などの政府職員を訓練する機関(FSI)があって、国務省をはじめ各省庁や軍隊に属する連邦政府職員に対し、70を超す言語の教育をほどこしているのですが、そこがたいへん興味深いデータを報告しています。
それによると、習得しやすい順に各言語を4つのカテゴリーに分類しているのですが、日本語は最後のグループ、すなわち「英語母語話者にはきわめて難しい言語」(languages which are exceptionally difficult for native English speakers)のひとつに数えられています。
ちなみに、そこでいう到達目標は「自分が専門とする仕事に使えるコミュニケーション力」という高いレヴェルです。以下、過去のデータを参照しながら、大まかにまとめてみましょう。
①《英語と密接な関係にある言語》
デンマーク語、オランダ語、フランス語、イタリア語、ノルウェー語、ポルトガル語、ルーマニア語、スペイン語、スウェーデン語の9言語。
――目標達成までに24~30週間(600~750時間)必要。
②《英語に似た言語》
ドイツ語、インドネシア語などの5言語
――目標達成までに36週間(900時間)必要。
③《習得が困難な言語》
アルバニア語、ロシア語、タイ語などの50言語
――目標達成までに44週間(1100時間)必要。
④《習得がたいへん困難な言語》
アラビア語、中国語、日本語、韓国語の4言語
――目標達成までに88週間(2200時間)必要。
日本語を含むカテゴリー④の4言語はSuper hard languages(超困難な言語)とされています。
この資料を逆方向から眺めれば、日本人にとっての英語は、アメリカ人にとっての日本語と同様、習得に時間がかかる(毎日5時間のトレーニングを週5日こなしても、88週間かかる)ということが推測されます。それも必要性に迫られたエリートが恵まれた環境のなかで集中的にトレーニングをすると想定した場合の話です。
わたしたちが英語を習得するには、一般に3000時間かかると言われていますが、2200時間というのはひじょうに説得力のある数字です。