目標を掲げる

 思えば、長いこと、英語に接してきました。予備校、大学、カルチャーセンターなどの講師をつとめ、教員歴はすでに34年に及んでいます。この間、数多くの学生たちと知り合ったのは言うまでもありません。

 そして同時に、「どうやったら英語が身につくのでしょうか」という質問も、数えきれないほど受けてきました。そんなとき、きまって私はこうたずね返すのです。あなたの目標は何ですか、と。

「英語ができる」には、じつにさまざまなレヴェルがあります。あいさつ程度の英語が「できる」もあれば、ビジネス交渉が「できる」レヴェルもあります。

 英語学習を始めるにあたって重要なことは、「いかなる目標を掲げるか」ということです。英語を学ぼうとする人のほとんどは、「英語がしゃべれるようになりたいから」という漠たる理由で英語の勉強を始めます。

 結果、どうだったか。ほとんどの人が長続きしませんでした。どうしてでしょう。それは「明確な目標」がなかったからです。

英語が必要ない9割の人

 英語は多くの日本人にとって、「できるにこしたことはないもの」であって、「できなければならないもの」ではないのです。

 裏を返せば、死活問題になるような、否でも応でも英語を使わなくてはならない状況にみずからの身をおけば、モチベーションが高まり、目標とする英語を手にすることができるようになります。

『日本人の9割に英語はいらない』(祥伝社)の著者・成毛眞氏によれば、英語を必要としている日本人はわずか1割程度にすぎません(私はもっと少ないのではないかと思っています)。

 そうした1割の人たちは否応なく高いレヴェルの英語を獲得しなければなりませんが、あとの9割のなかにも英語をわがものにしたいと願っている人たちがいます。

 そうした人は、「押しつけられた必要性」ではなく、「みずから求めた必要性」で英語を学んでいます。

 とはいえ、そうしたなかに、じつに内容のある立派な英語をしゃべる人がいます。筆者は、いくつかの成功例を見るうち、こう思い至るようになりました――どんなことも総花的に話せる英語を目指すよりも、まずは個人的に関心をもっている分野に絞って学んだほうが、結果的に英語をものにできるのではないか。

 とくに「やりなおし英語」においては、あれやこれやの分野を網羅的にカヴァーしようとするのではなく、関心のある分野に絞って学ぶほうが身につくのは間違いありません。

 まずは関心のある分野にだけ絞って、興味のない話はちんぷんかんぷん、興味があることなら理解度はぐんと増す――こうしたことは母語(日本語)であってもよくあることです。

 じっさい、興味のあることは、話しやすいし、聞きやすい。英語がわかる、わからないの違いは、案外そんなところにあるのかもしれません。