「煮物は冷めるときに味がしみる」のはなぜか

味付けの基本「さしすせそ」には科学的な理由があった

2019.11.01(Fri)佐藤 成美

 しかし、加熱すると組織が壊れて細胞膜の半透性がなくなり、煮汁の成分が移動できるようになる。食材中の水分と調味液の間には濃度差があることから、一定の濃度になろうとするのだ。これは「拡散現象」とよばれ、このときの移動速度の目安を「拡散係数」という。

 拡散係数は、物質の種類や温度、水分の粘性、分子の形や分子量などに左右される。異なる調味料を同時に入れると、多くの場合、相互に拡散速度を遅らせることになる。また、異なる成分の間では、拡散係数は分子量が大きいほど小さくなる傾向がある。たとえば、塩(分子量58の塩化ナトリウム)と砂糖(分子量342のショ糖)の拡散係数を比べると、分子量の小さい塩のほうが拡散係数は大きく、砂糖に比べて約4倍の速さで拡散する計算になる。塩より先に砂糖を入れないと、甘味がしみ込みにくくなるのだ。

 このようなわけで、調味料を加える順番が問題になるのである。

魚は沸騰させてから、野菜は水のうちに

鯖(さば)の煮付け。

 煮魚では、調味料を先にすべて入れ、煮汁を沸騰させてから魚を入れる。これは、うま味を逃がさず、また身が締まって固くならないように短時間で仕上げるためである。沸騰した煮汁の中では、熱によって魚の表面のタンパク質がすばやく固まり、魚のうま味成分を含んだ肉汁が流れ出るのを防ぐことができる。

 また、煮汁の量が多いと魚からのうまみ成分の流出が増えてしまうので、煮汁はなるべく少ないほうがよい。そこで、落し蓋を使うと、煮汁が少なくても蓋を伝わって魚の上にまで回り、全体に味を付けることができる。

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