「クルマエビの父」が切り開いた世界のエビ養殖

世界を渡り歩くグローバル食材、エビ(前篇)

2019.10.11(Fri)漆原 次郎

戦後、漁業の近代化などによりエビの消費量は急増

 こうして辿っていくと、「やはりエビと日本人は切っても切れない縁」という気がしてくる。だが、現代に入り戦後ほど日本人がエビを大量消費している時代は、これまでなかった。

 経済学者の村井吉敬が著した『エビと日本人』によると、1人あたり1年に食べるエビの量は、戦前は300グラムだったが、1986年には3キロになったという(いずれも有頭エビ重量)。2010年代は魚介類離れなどで消費量は減ったものの、それでも戦前に比べたら現在の日本人はエビを大量に食べている。

 どうして戦後、日本人のエビの消費量は急増したのか。村井が第一に挙げる要因が「漁業の近代化」である。

 エビ漁業の近代化で特筆すべきは、エビの人工飼育技術や養殖技術が開発されたことだ。そこでここからは、日本での代表的な2種類のエビ、つまりイセエビとクルマエビについて、人工飼育や養殖の歩みを辿ってみたい。

イセエビはいまだ養殖技術が確立されず

イセエビ。大きな尾と長い触角が特徴的。美しい姿から、ご馳走の食材のほか、祝儀用の飾りにも用いられる。主に太平洋に分布。

 イセエビの養殖技術は、まだ確立されていない。ただし、イセエビの生活環のうちの一部を飼育にして、安定供給を図るための研究には歴史がある。「日本における海産魚介類の種苗生産研究の歴史は、イセエビから始まった」という見方もあるくらいだ。

 中でも、ふ化した直後のイセエビ幼生を飼育して稚エビに仕立てることは、イセエビの安定生産にとって重要な技術となる。その研究は1898(明治31)年、水産講習所(現在の東京海洋大学)の服部他助と大石芳三によるふ化試験に端を発する。彼らは幼生を脱皮、成長させることに挑んだものの、うまくいかなかった。幼生が何を餌としているのかもまだ分からなかったのである。

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