内閣府試算が示す日本経済の行方

『試算』最新版は、2019年度から2028年度までの日本の「マクロ経済の姿」そして「国・地方の財政の姿」を、2つのケースに分けて予測している。

 1つのケースは、アベノミクスが目標とする2%の物価上昇率が達成される「成長実現ケース」である。もう1つのケースは、1%強の物価上昇率が達成される「ベースライン・ケース」である(ベースラインとは本来、測量の際の基準となる線のことである)。

 物価上昇率が0%前後で推移する「ゼロ成長ケース」や、物価上昇率がマイナスで推移する「成長失敗ケース」の試算は(おそらく行われているのだろうが)公開されていない。

【図1】:物価上昇率および国内総生産(GDP):実績(2000〜2018年)と内閣府試算(2019〜2028年度)
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 消費者物価の上昇率を見ると、「成長実現ケース」では、2020年度から上昇を続け2024年度から2%で安定的に推移する(【図1】①青い曲線)。

 このとき、日本銀行の黒田東彦総裁が2013年4月4日に「現時点で考えられるあらゆる政策を総動員して、2%の『物価安定の目標』について、2年程度を念頭に置いて実現する」と力強く宣言したことが、最初の想定の5倍の長さの10年を掛けて達成されることになる。

 経済活動の規模を表す国内総生産(GDP)の物価調整をしない名目値の試算を見ると、「成長実現ケース」では、2018年度に550.3兆円であったのが、2023年度に600兆円を超え、2027年度に700兆円を超え、2028年度には729.0兆円に達する。この間の年度平均成長率は約2.9%となる(【図1】③青い曲線)。

 この試算は相当に強気である。約2.9%の成長率は、2000〜2018年度の年度平均成長率の約0.2%の約14.5倍、アベノミクス下の2013〜2018年度の年度平均成長率の約1.8%を1.1ポイント上回る。つまり経済成長がこの時期に比べ、約6割もスピードアップすることになる。

 これに対して、「ベースライン・ケース」では、消費者物価上昇率が2023年以降は1.1%で安定的に推移し、黒田総裁の宣言は15年後の2028年度になっても達成されないままとなる(【図1】②赤い曲線)。

「ベースライン・ケース」の名目GDPは2018年度の550.3兆円から2024年度に600兆円を超え、2028年度には635.1兆円に達する。この間の年度平均成長率は約1.4%となる(【図1】④赤い曲線)。

 この試算はかなり弱気である。約1.4%の成長率は、2000〜2018年度の年度平均成長率である約0.2%の7倍であるものの、アベノミクス下の2013〜2018年度の年度平均成長率である約1.8%を0.4ポイント下回る。つまり経済成長が同時期に比べ約22%もペースダウンすることになる。