隠し味はコクを強める
「隠し味を加えることは、コクを増強させるための手法なんです」と西村さんは言う。うま味成分を多く含む醤油やみそを加えることで、複雑さが増す。ごま油やバターを加えることは、風味に加え、持続性を増すことにつながる。
おもしろいのはだしである。かつお節や昆布からとっただしは、純度の高いうま味成分といえる。だしそのものの味わいは非常に弱いが、少し塩や醤油を加えるだけでぐんと風味が増し、コクを感じるようになる。実際、筆者もカツオと昆布のだしを試してみたところ、塩を加えたとたんに口の中に風味が広がるのを感じた。
冒頭とりあげたカレーは、コクが強いとおいしいと感じられる食べものであり、どろりとしたカレーのおいしさは、ルーの粘性が風味を持続させ、よりコクを強くすることに一因がある。
一方、シャバシャバカレーは粘性が少ない分、風味の持続性が弱く、ほかの要素を増やさないとコクが出ない。そのため、専門店ではシャバシャバカレーについて、風味が強いことをアピールしている。シャバシャバだけどコクの強いカレーを自分で作るのは、なかなか難しそうだ。
興味深いことに、市販のカレールーの原材料名を眺めてみると、スパイス類に香味野菜や各種エキス、チーズなどを使ってコクが出るように、各社さまざまなものを工夫して配合している。
では、そこにコーヒーを加えるとどうしてカレーのコクが増すのかというと、コーヒーに含まれている苦味物質が味を複雑にするからだ。さらに、苦味は口の中に長く残る味なので、持続性も増すと西村さんは言う。チョコレートの苦味も同様の効果を示すのだろう。
また、チーズは発酵や熟成によって、うま味成分や香気成分が多く含まれるようになる。カレーにチーズを足すと簡単に複雑さを増すことができ、コクが出るのも納得だ。