今回実施された選挙は参院選なので、衆院選の小選挙区と多少事情は異なりますが、先述のとおり「1人区で勝負が分かれた」ので、本来は小選挙区制の理屈が通じるはずなのです。その意味では、本来的には野党が健闘して当然なのですが、現実にはそうなりませんでした。今回だけならともかく、自民党に連戦連敗の状態が続いています。25年前の通説に従えば、野党は「強い」はずで、二大政党制が確立しているはずなのに、なぜこんなに弱くなってしまったのでしょうか。

今も続く「民主党アレルギー」

 私は、その原因は大きく3つに分類できると見ています。

 1つは日本における特殊要因ともいえるものですが、「民主党の失敗」、即ち、先ほど述べた2009年に、選挙で政権交代を実現した民主党の失敗です。鳩山由紀夫氏、菅直人氏、野田佳彦氏と3人の総理が生まれましたが、その間、リーマンショック後の景気低迷やとどめのような東日本大震災に襲われ、その対応に批判が集中しました。その過程で、国民は「民主党」にすっかり嫌気が差してしまったようです。自民党が政権に復帰して以降も、民主党の党勢は衰える一方で、結局、野党の総結集を図って党名を民進党に変更するなどしましたが、間もなく分裂してしまったのはご存じの通りです。

 今回の参院選挙期間中、自民党総裁でもある安倍総理は各地の応援演説で、立憲民主党代表の枝野幸男氏のことを、「民主党の枝野さん」と何度も言い間違えていました。同じ間違いを各地で何度も繰り返し、聴衆の爆笑を誘っていたようですから、あれはおそらく、わざと「民主党の」と言っていたのでしょう。つまり、国民の間に、「民主党」に対して強いアレルギー、ネガティブイメージが植え付けられていることをよく承知した上で、それを利用したということです。

 政策コンサルタントも務める私から見ると、政権交代当時の民主党の政策(当時は「マニフェスト」と呼ばれ、むしろ人気がありました)は必ずしも悪いものではありませんでした。国民が期待していた日本の統治構造に関する構造改革についての取り組みなど(一時期「脱官僚」という言葉が流行りましたが、政治主導を進める五原則五策等)、素晴らしい政策が謳われていたのです。なのに、なぜ民主党は失敗してしまったのでしょうか。

 第一には、良い議論はするのですが、実際に物事を動かすべく党内をまとめる力が足りなかったということです。安倍総理が実現させたTPP加盟にしても、もともとは民主党政権時から菅直人氏、野田佳彦氏がやろうとして打ち出していた政策です。ただ、党内がまとまりませんでした。

 いい議論はするのですが、党内をまとめ、国を動かす力がなかった。国民はそこを鋭く見抜きました。「野党が政権についても、結局実行力がないんだな」という印象を国民は強く持ったはずです。

 失敗の第二の原因は、経済政策でした。「民主党の議論は正しいのかも知れないが、でもこのままでは日本は食えなくなるんじゃないか」という懸念をあの時の国民は強く抱いていました。不幸なことに政権発足時は、リーマンショックが起こったすぐ後で、各国の景気も一気に悪化したときでした。「自民党なら経団連などと協調して大胆な景気対策をしてくれるかもしれない。でも、労組が基盤にあって『コンクリートから人へ』を掲げる民主党は、目の前の不景気には対応できない」。そんな受け止め方をされてしまったのです。

 結局、「政策遂行力もなさそう」「経済対策よりも統治構造等の構造改革に熱心で、自分たちの日々の生活は苦しくなりそう」と考える有権者が増えていき、「やっぱり自民党だね」というムードになっていってしまったのです。それゆえに「民主党の失敗」に端を発する「野党アレルギー」が現在も続いているのです。