1994年当時、政治学者や政治評論家が特に強調していたのは、「二大政党制というのは、極右と極左のように、極端に分かれた二つの政党が対立するような構図にはならない。そうではなく、政治的主張もそれほど違わない、似通った二つの政党が並び立つような構図になる」というものでした。実際にアメリカでは共和党と民主党、イギリスでは労働党と保守党という二大政党が存在していて、両者の間に対立軸がないわけではないけれど、非常に相対的で、どちらが政権をとっても極端に政策が変わるわけではない、という体制が続いていました 。

 当時の日本では、自民党に対抗するもっとも強力な野党は 社会党でした。当時の社会党は、自衛隊を合憲とは認めていませんでした。ですから一般的には、「二大政党制になって、もしも社会党が政権を取ったら、自衛隊を廃止してしまうのではないか」と心配する声もありました。

 しかし政治学者や評論家は「そうはならない」と読んでいました。 それは、他国の例を見ても、二大政党制になったときには、どちらの政党も主義・主張に大差はなくなってくる、というのが常識だったからです。つまりどちらが与党になっても政策が大きく変わることはなく、逆に緊張感が働いて政財官の癒着などに基づく不祥事が減るのでメリットの方が大きいと言われていたわけです。

極端な主張はなくなる二大政党制

 二大政党の政策に大差が無くなる理由としては、こんなことが言われていました。「従来の中選挙区制では一選挙区あたりの定員が3人以上ということが当たり前だったので、特定の支持基盤にだけアピールするような政策を訴えていても一定割合の支持者を得ていれば当選することができた。しかし小選挙区制の選挙では、当選者は1人なので、理論上は51%以上の得票率がないと勝てない。そうすると、極端な主張をして一定数の票を得られればいいという戦略は通じず、万人に広く受けるような政策を訴えるいわゆる『キャッチ・オール・パーティー』にならざるを得ない。だから政党の政策は似たものにならざるを得ない」というわけです。

 実際、2009年には、55年体制が確立して以来初めて、選挙による政権交代が実現しました。自民党に代わって政権を握ったのは、旧社会党議員も擁しながら、中道左派的な色合いが強い民主党で、思想・信条面や現実的な政策面では、その主張は自民党のリベラル系議員のものと大きな差はありませんでした。だからこそ、有権者は期待と安心感を持って民主党に投票したのでしょう。