6月29日に行われたG20サミットでの日ロ首脳会談でも、領土問題の具体的な進展はなかった。
転機とされた2016年12月のウラジーミル・プーチン大統領来日以降、幾度の首脳会談でも問題解決へ具体的な一歩を踏み出せていない。
いかにして、日ロは平和条約を締結できるのか。今回は、第2次大戦後未画定のままである国境を日ロがどう画定できるのか、具体的にみていきたい。
遅すぎた「新アプローチ」
2016年5月以降に安倍晋三首相が使い始めた「新アプローチ」は、法的・歴史的議論をいったん脇に置き、「共同経済活動」という経済協力を先行させて信頼関係を構築する試みだった。
だが、それはプーチン氏の言葉を借りると「古いメロディーに新しい歌詞をつけたもの」だった。
領土問題の解決を目指すなら、国境画定に関する本筋の議論は避けられない。もし、官邸主導で次のように一気に解決を目指したなら、ロシア側から見て「新しいアプローチ」となり得た。
それは、日本政府がロシア側の妥協の限度を理解したうえで、歯舞、色丹の日本への引き渡しに関する交渉を進め、国後、択捉については元島民をはじめ日本人にとって主権が返ってこなくても実質的には変わらないような条件を獲得することだ。
昨年(2018年)11月に日ロが合意した「1956年の日ソ共同宣言を基礎とした」平和条約交渉、つまり日本が四島返還の旗を下ろして歯舞、色丹2島の主権引き渡しだけで決着するとの妥協案こそ、2016年末の時点で安倍政権が打ち出しておくべき提案だった。
プーチンの限界と覚悟
昨年11月からの経緯で分かったのは、ついにプーチン大統領が歯舞、色丹の「主権」さえも日本に引き渡せなくなったということだ。
背景には複合的な要因がある。大きな要因は次の3つだ。