ところが日本政府は、伝統的に上記の日米安保第5条の規定を「アメリカが日本に対して救援軍を派遣する」といったニュアンスで説明している。あたかも安保条約適用領域内で、すなわち日本の領土領海ならびに日本が施政権を行使している領域内で、軍事衝突や戦争が生起した場合には、アメリカが軍隊を派遣して日本を救援することは「アメリカの義務」であるかのように喧伝しているのだ。

 さらに悪いことには、日本政府による手前勝手なニュアンスでの説明を、日本の多くのメディアが無批判に拡散させ続けている。その結果、この誤った解釈が日本国民の間に浸透してしまったのだ。このように日本において「アメリカの防衛義務」が広く信じられているのは異常な状態と言わざるを得ない。

トランプの“正当性”を後押しする日本メディア

 今回のトランプ大統領の発言をよく観察すると、「日本が軍事攻撃を受けた場合、アメリカは日本を守るであろう」といった表現をしている。日本で流布しているいい加減な解釈である「防衛義務」に近いニュアンスではあるが、「義務が課せられている」あるいは「守らなければならない」とは口にしてはいない。

 にもかかわらず、日本では「アメリカは防衛義務、日本は基地提供」といった表現が繰り返されている。これではトランプ大統領の「日本による防衛タダ乗り論」(これ自体、大いなる曲解に基づいた暴論であるのだが)の“正当性”を後押ししてしまうことになる。

 日本政府と日本のメディアは、日米安保条約ではアメリカの「防衛義務」ではなく「防衛の可能性」が規定されていることを、今こそ周知徹底させる義務がある。