例えば「もんじゅ」を国際的な管理の下に置き、世界に必要なエネルギー技術開発の場として活用すれば、高速炉の実用化に貢献していける。「もんじゅ」はプルトニウム燃焼炉として素晴らしい性能を持っているのだ。初装荷の燃料で1.6トンものプルトニウムを装荷でき、以降毎年0.5トンのプルトニウムを装荷でき、軽水炉で行うプルサーマル(MOX燃料による発電)に比べて約2倍のプルトニウムを燃焼することができる。

 現行のエネルギー基本計画では「プルトニウム保有量の削減」が明記され、これを受けて原子力委員会がプルトニウムの保有量は現状(約47トン)以上に増やさないこととするとの方針を決定した。だが、日本のプルトニウムは全てIAEAの厳格な査察(保障措置)下に置かれており、決して潜在的抑止力(核武装)のためのものではないので、核拡散上で問題視されるべきではない。

 原子力規制委の審査待ちである日本原燃・六ヶ所再処理工場がフル稼働すれば、年間約8トンのプルトニウムを生産する。もちろん、このプルトニウムでは核武装することはできない。六ヶ所再処理工場は、あくまでも日本の核燃料サイクルを確立するためものだ。2021年度上期の竣工が待たれる。

 高速炉については、今世紀後半に本格利用を開始する方向が打ち出された。ナトリウム冷却について世界で最も開発が進んでいるロシアが実績を重ねてきており、プルトニウム消費能力や国際共有財として優れた特性を有する「もんじゅ」を再活用するとともに、六ヶ所再処理工場の速やかな操業開始を実現することが、核燃料サイクルの確立のために必須である。

 最後にもう一つ指摘しておきたい課題がある。国の原子力産業政策についてだ。日本のエネルギー安全保障を考える上からも、原子力産業政策は極めて重要だ。そこでカギとなるのは、人材確保とその育成だ。

 ところが原発輸出を重要政策としていた日本は、いまや具体的な計画が破綻しかねない状況にある。原発新設が困難の中、このままでは早晩、日本の軽水炉の技術開発現場、製造現場、建設現場などに精通する人材がいなくなるだろう。そうなれば日本は、英国がそうなったように、中国から軽水炉を、ロシアから高速炉を購入せざるを得なくなる。日本のエネルギー安全保障を、中国・ロシアに委ねるという状況になってしまうのだ。

東京五輪後に不況が来たら原発新設で景気浮揚?

 ある閣僚経験者は筆者にこう語ってみせた。

「ローキードマーチン社が世界トップ水準の戦闘機をなぜ次々と開発できるか知っているか? 米軍が継続的に最先端の仕事を発注しているからだ。原発も同じだ。このままでは日立製作所の原発技術者約2000人は散逸する。他の原発メーカーも同じだ。原発新増設に触れていないエネルギー基本計画は、そうした産業政策を忘れている。日本は東京五輪後の2021年頃に、これまでの反動から大不況に陥る可能性がある。そうなった場合には、次のエネルギー基本計画で原発新設を打ち出し、景気浮揚を図るという手もある」

 だが、そのタイミングで腰を上げていて間に合うのだろうか。世界で始まっているイノベーションに付いていくためには、部材・燃料・小型炉・洋上原子力・熱利用などに取り組むことも欠かせない。原子力産業を持続可能なものにするためには、安全性向上や廃炉・廃棄物問題の解決に向けた取組み、立地地域を大事にすることも肝要だ。

 日立製作所が英国への原発輸出を断念したことについて、「日本はちょっと甘かった。反省材料はあるが、あれ一つで『政策がまずかった』とみるのは早計であり、政策を変える必要はない」という見方が政府の一部にあるが、筆者はそうは思わない。

 確かにBREXITと時期が重なり、英国側の冷静な判断が期待できない時期にぶつかったのは不運だった。だが、日立製作所が2012年に買収した英子会社「ホライズン・ニュークリア・パワー」を日立製作所からオフバランス(非連結化)するための約450億円の資金拠出を希望していたのに対して、日本政府はただ手をこまねいていたように見える。

日立製作所、英原発建設計画の凍結を決定

英ウェールズ沖合にあるアングルシー島で、日立が建設計画を進めていたウィルファネーウィズ原発のイメージ画像(2019年1月17日公開)。(c)AFP/HORIZON〔AFPBB News

 先行するヒンクリーポイントC原発の電気は92.5ポンド/MWh(13.9円/kWh)の固定価格で35年間にわたって英政府が買い取るのに対し、日立のホライズンパワーで発電する電気の買取り価格は75ポンド/MWhと2割強も低く抑えられている。しかも、その買取価格を決めるCfD契約は英国政府との契約であるだけに、日本政府として何か価格面での応援ができなかったのだろうか。筆者には疑問が残る。

 日本政府は、原発輸出の断念ではなく「ホライズンは延期になった」と言うが、再起の可能性は見通せていない。いずれにしても、原発輸出は国際ビジネスであるが、日本の原発の技術・人材の維持に直結する問題だ。それだけに政府には、『ニッポン・ファースト』の視点に立った政策的取組みを切に期待する。